年末年始やお盆に久しぶりに実家へ帰ると、“使っていないモノ”や“しまい込まれたモノ”の多さが目に入り、「そのうち片付けなければ」「このまま親が亡くなったら大変だ」と不安を覚える人は少なくありません。親のため、あるいは先々の自分のためと片付けを申し出ても、その“良かれと思って”の行動が、親との認識のズレによって衝突につながることがあります。今回は、実家の整理をきっかけに親子関係がぎくしゃくしてしまった皆川さん(54歳・仮名)の事例をもとに、実家の片付けにおける注意点や向き合い方について、CFPの伊藤寛子氏が解説します。
もう二度と来ないでちょうだい…〈年金月12万円〉田舎で独居の82歳母、息子の「実家への立ち入り」を号泣拒否。原因は“良かれ”と思って始めた「不用品の整理」【CFPの助言】
モノで溢れる実家に「俺がなんとかしなければ」とスイッチが入った息子
都内のメーカーで管理職を務める皆川さん(54歳・仮名)は、几帳面で効率重視の性格。仕事でも、段取りよく物事を進める能力には定評があります。
皆川さんは都内に購入したマンションに、妻と大学生と高校生の娘と4人で暮らし。実家は、新幹線と在来線を乗り継いで2時間ほどの地方都市にあります。父は5年前に他界し、現在は82歳の母・美代子さん(仮名)が、築40年以上の一軒家で一人暮らしをしていました。
昔は家族全員で年に2回ほど帰省していましたが、子どもたちが成長するにつれて一緒に帰省する頻度は減少。最近では母親が高齢で一人暮らしになったことから、皆川さんが単独で実家へ帰省し、様子を伺うようになっていました。
以前から実家の“モノの多さ”が気になっていた皆川さんですが、半年ぶりに訪れた実家の玄関で、思わず立ち止まりました。以前は綺麗に整頓されていた玄関に、積み上がるゴミ袋や段ボール。さらに居間のテーブルの上には、開封された郵便物や薬袋、新聞などが乱雑に積み重なっていたのです。
「母さん、これは酷すぎるよ。地震が来たら埋もれてしまうぞ」
眉をひそめる皆川さんに、美代子さんは気まずそうに答えました。
「実は最近、膝が痛くてね。ゴミ出しの日も朝が辛くて、ついつい溜まっちゃうのよ。片付けなきゃ、とは思っているんだけど……」
その弱々しい姿を見て、「俺がなんとかしなければ」と皆川さんの心にスイッチが入りました。
母の年金額を偶然把握…先々のために「徹底的に整理」を宣言
皆川さんが焦った理由は、安全面だけではありません。テーブルの上の書類から、母の年金額が遺族年金を合わせても月額約12万円であることを知ってしまったのです。
――このままの状態で母さんが倒れたら、誰が面倒を見るんだ? 施設に入るお金はあるのか? この家を売るにしても、このままの状態じゃ売れないだろう……。
――将来この家を相続したら、ここにあるモノを処分するのは自分だぞ……。
親への気遣いと将来への不安。その両方が、皆川さんの背中を強く押しました。今回の滞在中に徹底的に整理すると決意した皆川さんは、母に宣言しました。
「母さん、俺が片付けを手伝ってあげるよ。力仕事も任せてくれ」
「あら、そう? 助かるわ。高いところのモノとか、届かなくて困っていたの」
母も感謝の言葉を口にしていましたが、この時の「片付け」に対する認識が、親子で天と地ほど違っていたのです。