年末年始やお盆に久しぶりに実家へ帰ると、“使っていないモノ”や“しまい込まれたモノ”の多さが目に入り、「そのうち片付けなければ」「このまま親が亡くなったら大変だ」と不安を覚える人は少なくありません。親のため、あるいは先々の自分のためと片付けを申し出ても、その“良かれと思って”の行動が、親との認識のズレによって衝突につながることがあります。今回は、実家の整理をきっかけに親子関係がぎくしゃくしてしまった皆川さん(54歳・仮名)の事例をもとに、実家の片付けにおける注意点や向き合い方について、CFPの伊藤寛子氏が解説します。
もう二度と来ないでちょうだい…〈年金月12万円〉田舎で独居の82歳母、息子の「実家への立ち入り」を号泣拒否。原因は“良かれ”と思って始めた「不用品の整理」【CFPの助言】
実家の整理をわだかまりなく進める3つのポイント
実家の整理がこじれてしまう原因は、“モノ”に対する考え方の違いにあります。子どもは実家のモノを「使えるか、不要か」という基準で判断し、「使わないなら捨てよう」「売ればお金になる」と合理的に考えがちです。
一方で、親にとって家にあるモノは「持っていることの安心感」が強く、一つひとつに思い出や愛着があります。それを頭ごなしに「ゴミ」と見なして捨てるのは、親からすればこれまでの暮らしや生き方を否定されたように感じてしまうでしょう。
実家の整理を親と子の間でわだかまりなく進めるためには、子ども主導で勝手に進めないこと、価値観を押しつけないことが重要です。その上で、以下のポイントを意識してみてください。
・整理の順番と範囲
いきなり親の聖域(思い出の品)には触れずに、まずは玄関や廊下などの共有スペースから始めたり、「今日は本棚だけ」など整理する範囲を限定して取り組んだりすると、親も心の準備がしやすくなります。
・いきなり捨てない
捨てるか迷うモノが出たときは、すぐに決断を迫らずに、「一時保管ボックス」などを用意して「一定期間置いてから再度考える」とすることで、時間の猶予ができ、親の「捨ててしまうことへの不安」を和らげることができます。
・言葉選びを変える
「片付けよう」「捨てよう」という言葉は、親への批判に聞こえることもあります。代わりに「安全対策」などの言葉を使うことで、「モノを減らすこと」ではなく「親の安全を守ること」が目的だと伝わり、親も安心感を持ちやすくなります。
実家の整理は“家族の未来を整える作業”
実家の整理は、単に部屋をきれいにするだけの作業ではありません。片付けを通して、通帳や保険証券などの保管場所の確認もすることができます。いきなり財産についての話題を切り出すと角が立ちますが、片付けをしているからこそ、通帳や証券の整理を通して自然とお金についての話題につなげることもできるでしょう。
さらに、住まいや介護についての話題に広げることで、親の価値観や意思を確認し、思いを共有することもできます。その後、再度実家を訪れた皆川さんは、まずは“捨てる”ことよりも“話を聞く”ことを優先し、少しずつ整理を進めているといいます。
モノの整理は、ただ片付けるだけではなく、人生の整理にもつながっています。親の過ごしてきた時間に敬意を払いながら、無理のない形で家を整えていくことが、 “家族の未来を整える作業”となるでしょう。
伊藤 寛子
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)