“モノ”に対する価値観の違いが表面化し、親子が衝突

 翌朝から、皆川さんは猛烈な勢いで整理し始めました。まずは、押し入れに眠っていた大量の布団や父の古い背広などを、次々とゴミ袋に詰め込んでいきます。一方、母親は最初こそ順調に片付けを進めていたものの、徐々に手が動かなくなっていきました。

台所の片付けに移ると、 皆川さんは流しの下にジャムの空き瓶やプラスチック容器、スーパーの袋が大量に詰め込まれているのを見つけ、迷わずゴミ袋に放り込みました。

「ちょっと! 何してるの!」

「何って、ゴミを捨ててるんだよ。こんな空き瓶、何十個もあってどうするんだよ。汚いし、場所をふさぐだけだろ」

必死に止める美代子さんに対して、皆川さんは平然と答えました。

「それは梅干しを漬けたり、お裾分けをする時に使うのよ! 洗ってとってあるのに、ゴミ扱いしないで!」

美代子さんはゴミ袋から必死に瓶を取り出そうとします。さらに、押入れの奥から出てきた箱入りの掛け軸や、埃を被った木箱に入った古い壺や陶器などを見た皆川さんが、「母さん、この壺やお皿も、売れば少しはお金になるかもしれないよ」 と言うと、美代子さんの表情はさらに曇りました。

「それはお父さんが退職祝いでいただいた大事なものよ。その壺だって、先祖代々受け継いできたものだし」

皆川さんは、「でも母さん、持っていても仕舞い込んでいるだけだし、管理できないだろ? 価値があるうちに現金化したほうがいいんじゃない?」と“正論”をぶつけました。

モノとして置いておくより現金に替えたほうが、少しでも母の生活のためになる、そう信じて疑わなかったのです。

「でも、勝手に手放すわけにはいかないわ」 そう拒む母親に、皆川さんは呆れて声を荒らげました。

「いい加減にしてくれよ! そんなガラクタに囲まれて暮らすのが幸せなのか? 俺は母さんのためにやってるんだぞ。金になるものは金にして、スッキリ暮らしたほうがいいに決まってる!」

その言葉を聞いた瞬間、美代子さんの目から涙が溢れ出し、震える声で叫びました。

「もうやめて! もう手を出さないで。あんたは、私の大事なモノも全部ゴミにするの! お父さんの大事なものまで……私が死んだときのことしか考えてないんでしょう!」

「違うよ、俺は母さんの老後を心配して……」

「もう二度と来ないで! 私の家のことに口を出さないでちょうだい!」

母の反応に、皆川さんは呆然としました。良かれと思ってしたことが、なぜこんなことになってしまったのか……。結局、皆川さんはその日のうちに実家を追い出されることになったのです。