老後を公的年金だけで生活するのは難しく、蓄えがなくて生活苦に陥る高齢者は少なくありません。特に配偶者を亡くした後の一人暮らし男性は、家事や家計管理のスキル不足から生活が破綻するケースがあります。今回は、妻を亡くした後も「大丈夫だ」と強がり続けた78歳の父と、年末の帰省でその実態を知って愕然とした47歳の娘の事例と解決策を、CFPの松田聡子氏が解説します。
お父さん、どうして暖房つけてないの…サプライズ帰省した娘、実家の異変に絶句。空っぽの冷蔵庫・流しに食器の山・使われていない浴室にこけた頬…〈年金月10万円〉78歳父が隠し続けていた「哀しい真実」【CFPの助言】
父の生活を守るために娘ができること…公的支援と見守りの継続
幸夫さんのような状況を改善し、妙子さんが安心できるようにする方法について、FPからアドバイスします。
幸夫さんの「子どもに迷惑をかけたくない」という気持ちは、親として自然な感情でしょう。しかし、このまま放置すれば低体温症や栄養失調で倒れ、最悪の場合は孤独死につながりかねません。そうなれば、妙子さんは精神的な苦痛だけでなく、さまざまな金銭的・物理的な負担を背負うことになります。
本当に子どもに迷惑をかけたくないなら、まずは公的な支援の活用を検討しましょう。以下は、妙子さん親子のようなケースで実践してほしい具体的な行動です。
まず、自分(この事例でいえば幸夫さん)が住む地域の地域包括支援センターに相談しましょう。地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを総合的に支える地域の拠点です。保健師や社会福祉士などの専門家が、高齢者のさまざまな悩みや困りごとについて無料で相談に乗ってくれます。妙子さんが相談員に幸夫さんの状況を伝えれば、適切なサービスや制度を紹介してもらえるでしょう。
生活保護については、福祉事務所で相談できます。年金を受給していても、収入が最低生活費(国が決めた基準で計算した1ヵ月分の生活費)を下回っていれば生活保護と併給できる可能性があります。
また、幸夫さんのように料理ができない高齢男性には、「配食サービス」が有効です。栄養バランスの取れた食事を届けてもらえるだけでなく、配達時に安否確認も行ってくれるため、見守り機能も兼ねています。多くの自治体が民間の事業者に委託し、1食数百円程度で利用可能です(自己負担額は自治体ごとに異なります)。
一人暮らしの高齢者向けに、「緊急通報システム」を低額または無料で利用できる自治体もあります。万が一の際にボタン一つで通報できる仕組みを導入しておくと安心です。
妙子さんは幸夫さんへの経済的な援助が難しい状況でしたが、金銭的支援だけが親孝行ではありません。定期的に電話をかける、月に一度は顔を見に行く、一緒に役所の窓口に行って手続きをサポートするなど、できる範囲での見守りの継続が重要です。
特に幸夫さん世代の男性は、自ら助けを求めることが苦手な傾向があります。子どもの方から寄り添い、「一緒に解決しよう」と伝えると、親側も支援を受け入れやすくなるでしょう。
専門家や公的支援を上手に活用しながら、親子で協力して解決への道を切り開いていくことが、これからの安心な暮らしにつながります。
松田聡子
CFP®