老後を公的年金だけで生活するのは難しく、蓄えがなくて生活苦に陥る高齢者は少なくありません。特に配偶者を亡くした後の一人暮らし男性は、家事や家計管理のスキル不足から生活が破綻するケースがあります。今回は、妻を亡くした後も「大丈夫だ」と強がり続けた78歳の父と、年末の帰省でその実態を知って愕然とした47歳の娘の事例と解決策を、CFPの松田聡子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
お父さん、どうして暖房つけてないの…サプライズ帰省した娘、実家の異変に絶句。空っぽの冷蔵庫・流しに食器の山・使われていない浴室にこけた頬…〈年金月10万円〉78歳父が隠し続けていた「哀しい真実」【CFPの助言】
深刻化する高齢単身男性の孤立と生活崩壊のリスク
幸夫さんのような事例は決して珍しくありません。高齢者の貧困は現代社会が抱える深刻な問題の一つですが、特に見落とされがちなのが「配偶者を亡くした後の高齢男性」の困窮です。
日本の66歳以上の貧困率は男性が16.6%、女性が22.8%となっています(※)。女性の方が貧困率は高いものの、男性も約6人に1人が貧困状態にあるのです。
幸夫さんの場合、節子さん亡き後の収入は、自身の年金10万円のみとなりました。ところが、総務省の「家計調査」(2024年)によると、65歳以上の単身無職世帯の平均消費支出は月額約14.9万円です。つまり、年金収入だけでは毎月約5万円の赤字が生じる計算になります。
蓄えがあればしばらくは持ちこたえられますが、幸夫さんは節子さんの医療費や葬儀費用で貯蓄の大半を使い果たしていました。また、家計管理の経験がないため、どこにいくら使っているのか把握できず、気づいたときには灯油代さえ捻出できない状態に陥っていたのです。
さらに問題なのは、高齢男性は女性に比べて地域社会から孤立しやすいという点です。現在の70代、80代の男性の多くは、現役時代に家事全般を妻に任せてきた世代といえます。料理、洗濯、掃除、家計管理といった生活スキルを持たないまま一人暮らしになると、生活が急速に立ちゆかなくなる場合があります。
幸夫さん世代の男性には子どもに助けを求めることを「恥」と感じ、困窮を隠し続けた結果、状況が悪化してしまうケースは少なくないでしょう。