令和5年度の司法統計によると、家庭裁判所に申し立てられた相続に関する争い件数は13,872件でした。毎日のようにどこかで起きている相続トラブル、決して他人事ではありません。「ウチは仲が良いから大丈夫」「子どもたちでうまくやるだろう」といった家庭ほど、いざその時になるとトラブルに発展してしまうもの。円満な相続を実現させるため必ず押さえておきたいポイントについて、事例をもとにみていきましょう。
「この人でなし!」亡き母の〈タンス預金8,000万円〉が原因で50代姉妹が“絶縁寸前”の大ゲンカ…骨肉の相続争いに終止符を打った「1通の封筒」の中身【CFPの助言】
母が遺した“もうひとつのプレゼント”
言い争いがヒートアップするなか、Aさんがなんとなく仏壇に目をやると、通帳がしまってあった引き出しに、1通の封筒を発見しました。封筒には「遺言書」と書いてあります。
すかさず封を開けようとしたAさんに、Bさんが「ちょっと待って、勝手に開けると遺言の内容が無効になるかもしれないって、前にテレビでみた気がする」
二人はこの遺言書の扱い方がわからず、近くの弁護士事務所を訪ねました。その結果、この遺言書は「自筆証書遺言※」といって、封を開けるには家庭裁判所で検認の手続きが必要であることが判明します。
※参考:自筆証書遺言を法務局に預ける「遺言書保管制度」を利用すれば、遺言者が死亡した時に相続人などに通知され、家庭裁判所の検認も必要なくなる。
ひとまず検認の手続きを終えた姉妹
後日、裁判所からの呼び出しがありました。相続人(姉妹)と裁判所の職員が立ち会い、遺言書を開封して、日付・筆跡・遺言者の署名・本文を確認します。
遺言書には「私の資産は、遺留分のみAに渡し、あとはすべてBが受け取るように」と、母の字でハッキリ書かれていました。また、いつも見守ってくれたBさん家族へ感謝の気持ちが綴られています。
Aさんの「こんなの無効よ!」という叫びが空しく響きます。
AさんBさんそれぞれの相続額は?
ところで亡母の遺産は、預金8,000万円と実家の土地建物2,000万円の約1億円です。遺言書通りに分けると、Aさんは2,500万円、Bさんは残りの7,500万円を相続します。
なお法定相続人が2人のとき、相続税の基礎控除額は4,200万円です。相続税の計算は税理士の専業ですが、遺言書通りに遺留分を相続しても、Aさんもいくらか相続税の負担は必要でしょう。
Bさんの後悔
結局、Aさんの夫が「遺留分だけでももらえれば御の字だろう」とAさんをなだめて納まりました。
Bさんは落ち着きを取り戻した後、「子どもの教育費や自宅の購入資金などお金が必要なときに援助を頼めばよかった」「こんなことなら父が亡くなったときに、姉の話を頑なに反対するだけではなく、2次相続を検討しても良かった」と、母とお金についてしっかり話していなかったことを後悔しはじめました。
また、実家を相続したため、固定資産税などの諸税や維持管理費の負担が、将来家計にどのくらい影響するか気になりはじめました。