夫が亡くなり悲しみに暮れる中、高額の借金があったことを知り唖然とする妻――。このように、「亡くなった後に借金が発覚する」というケースは、実は珍しくありません。債務者が亡くなると、その借金は遺族が相続することに。借金の総額がプラスの財産額を上回れば、相続放棄を視野に入れざるを得なくなります。今回は、急死した夫が保険金を遺してくれたものの多額の借金も隠していたという事例から、相続放棄の判断基準や生命保険金の有効性について、CFPの松田聡子氏が解説します。
73歳夫、永眠。年金月12万円の妻〈1,000万円の死亡保険金〉を受け取り感謝していたが…「とんでもない置き土産」発覚に絶句【CFPの助言】
亡くなった人の「借金」も相続される―知っておくべき相続の仕組み
相続と聞くと、多くの人は預貯金や不動産といった「プラスの財産」を思い浮かべるでしょう。しかし、相続とは亡くなった人の権利や義務のすべてを引き継ぐことを意味します。つまり、借金や保証債務といった「マイナスの財産」も相続の対象になるのです。
俊子さんのように、家族が亡くなってから初めて借金の存在を知るケースは決して珍しくありません。返済が滞っていなければ督促状のような郵便物が届くこともなく、借金の存在に気づかないまま時間が過ぎてしまうこともあります。また、借金をしている本人が、「心配をかけたくない」と家族に黙っていたというケースも少なくないでしょう。
相続の手続きでは、亡くなった人のプラスの財産もマイナスの財産も把握する必要があります。郵便物や通帳の明細を調べるだけでなく、信用情報機関への照会も有効な手段です。
では、もし亡くなった人に多額の借金があるとわかったら、残された家族はどうすればいいのでしょうか。
そもそも相続には、「単純承認」・「限定承認」・「相続放棄」と、大きく分けて三つの選択肢があります。
1:単純承認…プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続するもの。何も手続きをしなければ自動的に単純承認となる。
2:限定承認…プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐという方法。相続人全員の同意が必要で手続きも煩雑なため、実際にはほとんど利用されていない。
3:相続放棄…プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄し、最初から相続人ではなかったことになる。令和5年度の司法統計年報によると、相続放棄の受理件数は28万2,785件に上る。相続放棄は決して特別なことではなく、多くの人が選択している手段といえる。
このうち限定承認と相続放棄には期限があり、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に、家庭裁判所で手続きをしなければなりません。この期限を過ぎると、自動的に単純承認したとみなされ、借金を引き継ぐことになってしまいます。
だからこそ、家族が亡くなったら、できるだけ早く財産と負債の全体像を把握することが重要です。また、相続財産に手をつけてしまうと単純承認とみなされる可能性があるため、注意が必要です。
さらに重要なのが、死亡保険金の扱いです。受取人が指定されている死亡保険金は、受取人固有の財産とされ、相続財産には含まれません。つまり、相続放棄をしても、保険金は受け取れるのです。この点が、俊子さんのような状況に置かれた人にとって、選択肢を広げる重要なポイントとなります。