退職を控える人のなかには、「退職金を一時金で受け取るか、それとも年金形式にするか」と悩んでいる人もいるのではないでしょうか。どちらを選ぶかによって、税金や社会保険料、将来の安心感に大きな違いが生じるため、慎重な判断が求められます。そこで、自身の決断を後悔しないためにも、退職金の受け取り方を選ぶ際の注意点と判断ポイントを、具体的な事例を通してみていきましょう。大竹麻佐子CFPが解説します。
後悔しています...退職金2,000万円を「年金形式」で受け取る60代・元公務員の嘆き【CFPの助言】
年金形式で受け取った60代Aさんの後悔
退職金の受取を「年金形式」にしたAさん(元地方公務員・60代・退職金約2,000万円)は、後悔を口にしていました。
退職時、一時金として全額受け取るよりも、年金形式で受け取れば資産が増えるかもしれないと考えました。これまで投資経験もなく、自分で運用するよりは専門家に任せたほうが安心だと思ったのです。
しかし、実際には、公的年金と退職年金を合わせた収入が多くなったことで、所得税や住民税、さらには社会保険料の負担が想定以上に重くなりました。また、年金受給額が一定であるため、物価上昇による実質的な価値の目減りも感じています。
Aさんは、「何よりも退職所得控除が使えなかったのが悔やまれる」と話していました。
退職金の「受け取り方」の選択肢
退職金の受け取りには、主に「一時金」と「年金形式」の2つがあります。
それぞれの特徴について整理してみましょう。
■一時金として受け取る場合
【メリット】
退職所得控除の適用があるため、多くの場合、一定の計算式により税負担が軽減されます。
退職所得の金額=(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額) × 1/2
一時金としてまとまった資金を受け取ることで、住宅ローンの返済や投資などに活用することが可能です。
【デメリット】
一度に大きな金額が手元に入ることで、使いすぎや投資の損失リスクが高まります。
また、資金管理がうまくいかず、後半の生活資金が枯渇するケースや、反対に枯渇を気にしすぎるあまり、残高はあるものの消費できず、いつも生活不安を感じているケースも散見されます。
■年金形式で受け取る場合
【メリット】
安定した収入を確保できるため、生活設計が立てやすく、安心感が得られます。退職金の原資は、支払者(金融機関)において運用されるため、支給総額は一時金よりも多くなる傾向にあります。
【デメリット】
公的年金と合算されるため、所得税や住民税、社会保険料の負担が増える可能性があります。また、要介護状態となり公的介護保険サービスを利用する場合、自己負担割合は所得により1割・2割・3割に区分されるため、収入(所得)が多いことで2割・3割負担となる可能性があります。
