葬儀もお墓も、財産の準備も万端。「自分の終活」は済ませ、子どもに迷惑をかけない準備ができたと、胸を撫で下ろしている高齢世帯もいるでしょう。しかし、「自分のこと」とは別問題として、たった一つ、どうしても解決できない“最後の心残り”が重くのしかかってくることも……。本記事ではAさんの事例とともに、お金の問題を超えた終活について、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説していきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
終活を済ませた年金180万円・おひとり様の69歳母。「三途の川を泳いで渡る」と豪語、スイミング通いも…〈唯一の心残り〉を聞いた44歳娘、涙【FPが解説】
飼い主の「終生飼養」という責任
飼い主には、ペットがその命を終えるまで適切に飼養する「終生飼養」の責務があります。
「ペットの終活」とは、まさにこの責務を果たすため、飼い主に万一のことがあった場合に備え、残されたペットが安心して暮らせる環境を用意しておく、飼い主としての努めを指します。具体的には、エンディングノートなどにペットのプロフィール(名前、性別、年齢)をはじめ、性格や好きなこと、嫌いなこと、既往症の有無などを詳しく記入しておくことが重要です。
実は、母は最初、その猫を飼うことを躊躇していました。「自分の年齢を考えると、この子の最期まで面倒はみられないかもしれない」と。
しかし、捨て猫で雑種だったこともあり、引き取り手はなかなかみつかりません。元来、責任感の強い母は、「見捨てることはできない」と、結局自身で飼うことを決断したのです。
だからこそ、当初抱いていた不安が、現実の悩みとして重くのしかかっています。
「自分が先にいなくなったら、この子はどうなるのか」
Aさんは、母があまりにも憔悴していることから、「万一のときは自分が引き取り手を探すから安心して」と伝えますが、母の不安は消えません。完璧な終活を済ませた母の、唯一コントロールできない深い愛情を知り、娘のAさんは思わず涙しました。
ペットの“終活”
核家族化や少子化により、「おひとり様」の高齢者は増え、終活は重要視されています。しかし、Aさんの母親のように、自分の終活は万全でも、ペットの“終活”という切実な問題が残ることがあります。
事情があってどうしても飼えなくなった場合であっても、ご自身で新たな飼い主を探す努力をする等、飼い主として責任をもって対応しなければなりません。また、飼い主が先に亡くなった場合でも、ペットが安全に安心して暮らせる環境を用意してあげることが飼い主の努めです。
※神奈川県:「犬や猫などのペットが飼えなくなってしまったら」より
Aさんが調べたところ、飼い主の死後を見据えた民間の「ペット後見サービス」や、老犬・老猫ホームなどもあるようです。「一度、一緒に話を聞いてみよう」と母に伝え、母も少し安堵した表情をみせました。
ペットの“終活”にかかる「お金」と「責任」。それは、多くの飼い主にとって、自分のこと以上に切実な問題となっているのです。
〈参照〉
神奈川県:犬や猫などのペットが飼えなくなってしまったら
https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/1594/awc/owner/relinquish.html
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表