65歳までの雇用義務化や70歳までの就業機会確保の努力義務など、高齢者の働く環境が整いつつあります。一方、現場では「思わぬ弊害」も……。会社から「70歳までの再雇用」を打診されたとある男性の事例から詳しくみていきましょう。※個人の特定を避けるため、登場人物の情報等は一部変更しています。
60歳サラリーマン「年収350万円ダウン」も再雇用を快諾→わずか1年で「辞職」を決意したワケ
70歳まで働く社会が現実に
2025年4月から「65歳までの雇用確保」がすべての企業で義務化されました。
厚生労働省「令和6年高年齢者雇用状況等報告」によると、下記の措置のいずれかで65歳まで雇用する「高年齢者雇用確保措置」が、99.9%の企業で実施済みとされています。
■継続雇用(再雇用、勤務延長など)制度の導入:67.4%
■定年の引き上げ:28.7%
■定年制の廃止:3.9%
さらに同報告によると、31.9%の企業は、70歳までの就業機会を確保(努力義務)する「高年齢者就業確保措置」を実施しています。
61歳男性が再雇用後に直面した「思わぬ問題」
都内の食品販売会社に勤めていたAさん(61歳)は、面倒見がよく社内外から頼りにされ信頼も厚かったことから、60歳の定年退職を迎えるにあたり、会社から70歳までの再雇用の打診を受けました。
部長職だったAさんの定年直前の年収は約900万円でしたが、再雇用後は550万円と、約6割に減給となります。とはいえ、65歳からの年金受給までの貴重な収入源になると、Aさんは会社からの打診を快諾しました。
しかし、再雇用後にAさんに、“思わぬ試練”が待ち受けていたのです。
頼ってくれるのは嬉しいが…「再雇用後の働き方」に戸惑い
再雇用後、Aさんの配属先は現役時代と同じ部署に配属となりました。これまでの役職には元部下が就いています。
Aさんは「再雇用だから」と割り切っていました。
ところが、社内外からの信頼が厚かったAさんは、役職が解かれてもこれまでと同様に社内外から頼られ続け、現部長とはお互い気を使い合って風通しの悪い状況に……。
それでもAさんは、時が経てばみんなも新体制に慣れるだろう考えていましたが、新体制は一向に定着しません。
「このままじゃこの部署が、ひいては会社がダメになる」と危機感を抱いたAさん。悩みに悩み抜いた末、退職する決意を固めました。そして、入社当時から世話になっていた役員のBさんにその旨を伝えます。
Bさんは、Aさんの悩みが他部署でも顕在化している社内全体の問題だと打ち明けます。そのうえで、再雇用した優秀な人材は元部署に配属するのではなく、特別顧問的な立ち位置で会社全体を俯瞰してもらう新たな部署を発足させるつもりだと話してくれました。これにより、Aさんは退職せずに済んだと話してくれました。