辰雄さんが耳を疑った「まさかの要求」

娘の機嫌を伺いながらズルズルと応じていると、「ルルはパパのためのペット」という大義名分を口実に、「ルルとの旅行に車が必要」「ルルのために広い部屋に引っ越したい」と要求はどんどんエスカレートしていきました。

(いくらなんでも限界だ。なんとかしなければ……)

いつしか楽しかったルルとの散歩も虚しくなり、老後資金への不安が増していく辰雄さん。しかし、そんな辰雄さんの苦悩をよそに、京香さんは新たな「望み」を口にしました。

「わたし、仕事を辞めて保護犬カフェをやろうと思うの」

犬好きというだけで経験もノウハウもない彼女にとって、それはあまりにも無謀な計画でした。しかも、「初期費用の800万円を、パパに出してほしい」といいます。

辰雄さんは、さすがに首を縦に振ることはできません。

「いくらなんでも無茶だろ。退職金も尽きてきているし、もう少し考え直せないか? カフェをやるお金が溜まってから行動に移せばいいだろう」と叱ると、京香さんはふてくされた態度でいいました。

「え~……ねえ、パパお願い。パパの貯金なら余裕でしょ? わたしが困ってるのにケチケチして……それでも父親?」

愛する娘のわがままだとそれまで受け入れてきた辰雄さんでしたが、堪忍袋の緒が切れました。

「……お前、ほんとうに俺の娘か?」

育て方が間違っていたのか? 父親としてなにかを見誤ってしまったのだろうか?……辰雄さんは心の中で自問自答を繰り返しています。

辰雄さんが漏らした「後悔」

京香さんの行動の根底には、「親に言えばなんとかなる」という、強固な甘えの構造が根づいているようです。

現役時代は体育教師として、教え子には「自立と責任」の大切さを説いてきた辰雄さんですが、あとになって「いま思えば、多忙で構ってやれない償いとして娘の欲しがるものはすぐ買い与えてきたように思います。甘やかしてきたツケがまわってきたのかもしれません」と後悔をにじませます。

もちろん、35歳になった娘の金銭感覚のすべてを親の責任だと断じることはできません。しかし、子どもが経済的な依存から抜け出せない背景には、親の過保護や金銭教育の不足が一因となっている可能性も捨てきれません。