「見栄より安心」を選ぶ――老後再建のカギは"暮らしを縮める勇気"

節子さんがFP相談を受けたきっかけは、「このままでは貯金が減る一方」という不安からでした。年金収入240万円に対し、住居費(別荘維持費含む)で150万円、生活費で200万円。年間およそ110万円の赤字が続き、「まだ何とかなる」と思いながら、少しずつ預金を取り崩していたのです。

「現時点では困っていない。でも、このペースだと10年後が見えないことが怖い――」

FPから助言されたのは、"住まいの見直し"でした。節子さんが暮らす都心マンションは立地も利便性も申し分ないものの、年間100万円の維持費は今後も増える可能性があります。

自宅を売却して、郊外の駅近シニア向けマンションやサービス付き高齢者住宅への転居を提案されました。現在1億2,000万円程度での売却が見込めるため、住み替えで100歳まで安心して暮らせる資金計画が立ち、生活支援も得られます。「終の住処」を早めに決めておくことが、結果的に安心と自由をもたらすという考え方です。

八ヶ岳の別荘は、今回の相談を機に、「このまま維持費を払い続けるより、いずれは解体・土地売却も視野に入れよう」と方針を転換しました。

また、クローゼットに眠るブランド品やジュエリーなども見直しました。ブランド品は意外な高値がついた一方で、ジュエリーはブランドでないものは金の地金価格でしか買い取ってもらえないと知り、「手元に残すもの」「子どもに譲るもの」「売却するもの」を分けて整理しました。 少しずつ"モノと気持ちの整理"を進めるうちに、「身軽になる」実感が湧いてきたといいます。

老後の再建に必要なのは、「守る」よりも「動かす勇気」です。暮らしを軽くしていくことで、心も家計も安定します。

「夫が残してくれたものを守るつもりでいたけれど、本当に守るべきは"自分の生活"なんですね」

そう話す節子さんの表情には、吹っ切れたような明るさが戻っていました。見栄ではなく、安心を選ぶ――。その小さな決断が、これからの人生を静かに支えていくのです。

三原 由紀
プレ定年専門FP®