高級マンションに住み、ブランド品を身につける一見"裕福そうな"78歳主婦。しかし実際には、固定資産税や管理費に年100万円、使わない別荘の維持に年50万円――年金だけでは賄えず、預金を取り崩す日々が続いています。かつての豊かさが、今の重荷に。見た目リッチに潜む老後の落とし穴"暮らしを軽くする勇気"について、ファイナンシャルプランナーの三原由紀氏が解説します。
上品なスーツとブランドバッグに身を包み、都心の高級マンションで暮らす78歳年金女性。一見“優雅なマダム”だが…「年110万円の赤字」「金食い虫の別荘」毎日脅えて暮らすワケ
見た目はリッチな78歳主婦・節子さんの苦しい現実
都心の閑静な高級住宅街に佇む低層マンション。その一室で一人暮らしをする節子さん(78歳・仮名)は、誰が見ても「裕福そうな奥さま」です。
出かけるときには上品なスーツにブランドのバッグ。近所の人から「いつまでもおしゃれね」と声をかけられることも少なくありません。
しかし、その印象とは裏腹に、節子さんの家計は思いのほか厳しく……夫の急逝から10年。現在の収入は遺族厚生年金200万円と老齢基礎年金40万円を合わせて年240万円(月20万円)ほど。決して少なくはありませんが、暮らしの維持費が重くのしかかります。
固定資産税が年間30万円、管理費と修繕積立金が計70万円。住まいだけで年間100万円が出ていきます。年間収支を整理すると、年金240万円に対し、住居費100万円、別荘維持費50万円、生活費200万円で年間およそ110万円の赤字。10年間で預金を約1,100万円取り崩してきました。
さらに最近、インフレによる資材高騰で修繕積立金の見直しについて、各世帯への追加負担案が理事会から出されています。
もうひとつの悩みは、八ヶ岳を望む山あいの別荘です。築40年を超える木造の戸建ては、夫の親の代から受け継いだもの。避暑のため毎夏訪れ、庭の手入れをするのが夫婦の恒例行事でした。
しかし夫の死後は足が向かなくなり、子どもたちが様子を見に行っては「庭が荒れ放題で手がつけられない」と言うように。子どもたちも「受け継ぐつもりはない」と話しており、節子さんにとっても重荷となりつつあります。
売却を進めてはいるものの、築年数と老朽化から買い手がつかず、維持費や光熱費、火災保険料などで年間50万円がかかっています。
お金が減っていくのが怖い…それでも生活レベルは下げられない
夫の他界後、1億円あった金融資産のうち5,000万円は、相続の際の分割協議で、生活が苦しいという長女と長男にそれぞれ2,500万円ずつ渡しました。「子どもが困っているのに、知らん顔はできなかったんです」と節子さん。
残った5,000万円のうち3,000万円は、夫の時代から預けている銀行の1年定期にそのまま、残り2,000万円は普通預金で保有していましたが、赤字補填で900万円まで減少。
「定期を解約すれば生活は楽になるのはわかっている。でも、定期預金は"老後の命綱"。崩したらもう戻らない……。それに、いつ入院や介護が必要になるかわからない。人生100年時代、あと何年生きるのか。お金を使い切る恐怖が頭から離れないんです」
"お金を減らすこと"そのものへの不安が、彼女を動けなくしているのです。
ブランド品やジュエリーは「昔の自分の象徴」。それを売ることも、生活レベルを下げることも、なかなか受け入れられません。
「見た目を保つのが、私に残された最後の誇りなんです」―― そう語る節子さんの姿は、一見優雅でありながら、切実な思いが滲んでいました。