高齢者の捨て活は身辺整理だけでなく、不要品をお金に替えて家計の足しにしたいという目的もあるようです。しかし、使っていないからといって持ち主の意向を尊重しないで処分するのは、深刻なトラブルにつながります。 今回は捨て活にハマって夫の大切な本を売ってしまった70代の主婦の事例から、相手の価値観を尊重する重要性をCFPの松田聡子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「なんで…なんでそんな勝手なことをしたんだ」穏やかな76歳夫、家の異変に激怒。〈年金20万円〉〈貯金800万円〉捨て活に目覚めた72歳妻が犯した罪【FPが警鐘】
経済的な「不安」と「心のゆとり」を両立させる老後生活のヒント
典子さんが陥った最大の過ちは、「対話の欠如」でした。老後の整理において、夫婦間で最も避けなければならないのは、相手の「譲れない価値」を無視することです。典子さんが最初にするべきだったのは勝さんに本を処分する許可をもらい、手放してもよい本を勝さん自身に選んでもらうことでした。
また、家の中の不要品はいずれ底をつきます。不要品をいつまでも家計の足しにはできません。家計の不安を解消するには、別の方法を考える必要があるでしょう。
持病のある勝さんが新たに外で就労するのは難しいといえます。それでも、家でできる仕事や、家庭菜園など、無理のない範囲で家計にプラスになることをやってみる価値はあります。取り組んでみると、新たな楽しみや生きがいにつながるかもしれません。
その後、典子さんは失われた夫婦の信頼を取り戻すため、小さな一歩を踏み出しました。本を売った古本屋に足を運び、勝さんが特に大事にしていた歴史家のサイン本がまだ残っていないか確認したのです。幸い、その本はまだ店頭に並んでいました。典子さんはサイン本を買い戻し、勝さんに差し出しました。
「勝手なことをしてごめんなさい。これからは、二人で相談して家のことを決めていきましょう」
サイン本を抱きしめる勝さんの表情は、固く閉ざされていた心にわずかな光が灯ったように見えました。
モノは取り戻せても、信頼は簡単に修復できません。この事例から学べるのは、老後の整理において相手の価値観を尊重し、対話を重ねることの重要性です。
松田聡子
CFP®