相続について、元気なうちは他人事で深く考えない人も多いでしょう。しかし、突然の病気や事故はいつ起こるかわかりません。特に、子のいない夫婦は事前に対策をしていないと、相続トラブルに発展するケースが後を絶たないようです。夫が急逝した49歳女性の事例をもとに、子のいない夫婦特有の相続リスクと、元気なうちに考えておきたい「生前対策」のポイントをみていきましょう。株式会社FAMOREの山原美起子CFPが解説します。
出ていってちょうだい…最愛の夫を亡くした49歳妻、悲しみに暮れるなか義母から告げられた「衝撃の一言」【CFPの助言】
百合子さんの「その後」
義父の配慮により、自宅を守ることができた百合子さん。
「厚意に甘えるだけでは申し訳ない」と、再び弁護士へ相談のうえ、義両親が受け取れるはずだった相続分を、非課税枠内で少しずつ贈与することにしました。
「夫も、お義父さんとお義母さんのことを気にかけていたはずです。老後の生活費の足しにしていただければ、きっと安心すると思います」
清志さんはその申し出を受け入れ、落ち着きを取り戻しつつあった久美さんも、その言葉に思わず涙しました。
「子のいない夫婦」の相続リスクを軽減する「遺言書」
子どものいない夫婦特有の相続リスクを防ぐためにもっとも有効なのは、「遺言書の作成」です。
配偶者に全財産を相続させる旨を明記しておけば、遺留分(法定相続人が最低限請求できる権利)を除く財産を配偶者に集中させることができます。
また、生命保険の受取人を配偶者に指定することも効果的です。保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産とみなされるため、他の相続人との分割対象になりません。したがって、保険金を代償金に充てることもできます。
「生前対策」がその後の暮らしを左右する
相続というと「高齢者の問題」と捉えられがちですが、突然の病気や事故は誰にでも起こりうることです。子どものいない夫婦こそ「まだ若いから大丈夫」と油断せず、遺言書の作成や生命保険への加入、配偶者への生前贈与などを通じて、未来の配偶者の生活を守る対策が求められます。
大切なパートナーを失った悲しみに加え、相続トラブルでさらなる苦痛を味わうことのないよう、「備えあれば憂いなし」の姿勢で生前対策を行っておきましょう。
なお、2020年には、配偶者の居住安定の観点から「相続開始時に配偶者が自宅に住み続けられる権利(配偶者居住権)」が新設されました。税負担などへの影響があるため、専門家に相談しながら検討することをおすすめします。
山原 美起子
株式会社FAMORE
ファイナンシャル・プランナー