相続について、元気なうちは他人事で深く考えない人も多いでしょう。しかし、突然の病気や事故はいつ起こるかわかりません。特に、子のいない夫婦は事前に対策をしていないと、相続トラブルに発展するケースが後を絶たないようです。夫が急逝した49歳女性の事例をもとに、子のいない夫婦特有の相続リスクと、元気なうちに考えておきたい「生前対策」のポイントをみていきましょう。株式会社FAMOREの山原美起子CFPが解説します。
出ていってちょうだい…最愛の夫を亡くした49歳妻、悲しみに暮れるなか義母から告げられた「衝撃の一言」【CFPの助言】
娘ヅラしないで…自宅を奪おうとする冷たい義母に、妻絶望
「娘ヅラしないでちょうだい。腹が立つ」
――義母のこのひと言は、百合子さん(仮名・49歳)の胸を鋭く突き刺しました。
6歳年下の夫・和志さん(仮名・享年43歳)がくも膜下出血で急逝。悲しみに暮れるなか、なんとか葬儀を終えて相続手続きを進めていたさなか、義母・久美さん(仮名・69歳)は吐き捨てるように言いました。
「この家は私たちが相続します。もし住みたいならそれ相応の現金を払うか、出ていくか選んでちょうだい。まあ、出ていくほうが簡単だと思うけど」
その言葉に、百合子さんも黙っているわけにはいきません。
「ここは夫との思い出が詰まった大切な場所です。どうか取り上げないでください。お願いします」
百合子さんはこう訴えますが、久美さんは冷たいまなざしを崩しません。
「……はあ。娘ヅラしないでちょうだい? 腹が立つ。子どもができなかったのはあなたのせいでしょう? あなたは“他人”なんですから、息子の家を渡すわけにはいきません」
実は、息子夫婦に子どもができることを長年待ち望んでいた久美さん。子どもができなかったのは年上の嫁・百合子さんのせいだと思い込み、心の奥で憎しみを募らせていたのです。息子の死をきっかけに、その感情が爆発してしまったようでした。
絶望した百合子さんでしたが、思い出の詰まった家を簡単に渡すわけにはいかないと、反撃に打って出ます。友人の紹介を受けて弁護士に相談。義父も交え、改めて話し合いの場が設けることにしたのです。
義父が“救世主”に…「相続放棄」で百合子さんの自宅は守られることに
体調を崩して長く療養していたために、義母の様子を知らなかった義父・清志さん(仮名・72歳)。その席で義母の“暴走”を初めて知り、激怒しました。
「気づいてあげられなくて申し訳なかった」と百合子さんに深く謝罪したうえで、こう言いました。
「夫婦で力を合わせて築いた家を私たちに取り上げる権利などない。相続放棄するから安心しなさい」
「ありがとうございます……」
百合子さんは胸をなで下ろすと同時に、相続についてなにも知らなかったことで、自分がいかに危うい立場に立たされていたかを痛感したのでした。