「A5ランク」と聞けば「とんでもなく美味しいお肉に違いない!」と、私たちは反射的に思ってしまいます。しかし、この「A5ランク」という表記は美味しさの基準ではないという事実をご存じでしょうか。本記事では、2005年に本格的に焼肉にハマって以来、年間100店舗以上もの焼肉店を巡るだけでなく、生産現場にまで足を運び、牛や餌に関する知見を深め、肉の焼き方や部位の特性を独自に研究・分析する焼肉作家、小関尚紀氏の著書『知ればもっと美味しくなる!大人の「牛肉」教養』(三笠書房)より一部を抜粋・再編集して、「A5ランク」の真意について解説します。
「A5ランクだから美味しい」は間違い!?
「本日は最高級A5ランクの〇〇牛を入荷しております!」
スーパーの精肉コーナーで、このようなマイクパフォーマンスを聞いたことはありませんか?
「A5ランク」と聞けば「とんでもなく美味しいお肉に違いない!」と、私たちは反射的に思ってしまいます。実際、テレビ番組などでも「A5ランクは最高級の味だ」と紹介されることもあり、「A5ランク信仰」は世間にすっかり定着しているようです。
しかし、このA5ランク、じつは「美味しさの基準ではない」という衝撃の事実をご存じでしょうか。牛肉の格付けはA~Cの3段階のアルファベットと1~5の5段階の数字を組み合わせた15個の区分で評価されます。このシステムは、1960年代前半に社団法人日本食肉協議会が、食肉の流通を合理化する目的で導入したものです。
つまり、A5ランクが流通上の意味合いで「最高級」であることに間違いはありませんが、必ずしも「最高級に美味しいお肉」を意味するわけではないのです。あくまで流通業者が取引しやすくするための「単位」にすぎないわけですね。
詳しく見ていきましょう。
まずアルファベットの部分ですが、これを「歩(ぶ)留(ど)まり等級」と言います。牛は、
枝肉:牛から内臓や四肢、頭や尾を取り除いた状態の肉
↓
部分肉:枝肉から骨や余分な脂肪を除いた状態の肉
↓
精肉:食べやすくカットされた食用の肉
という順序で食肉に加工されていきますが、歩留まり等級は、枝肉量に対する部分肉量の割合によって決定されるのです。具体的な基準は、72%以上であればA、69%以上で72%未満であればB、69%未満であればCとなります。
つまり、最初のアルファベットは「その牛から無駄なく肉が取れるかどうか」という効率性を示しているだけであり、味の要素は一切加味されていないわけです。
数字の正体は「霜降り」や「美しさ」
次に数字の部分ですが、これを「肉質等級」と言います。肉質等級は、霜降りの度合い、肉の色、きめ細かさなどを専門家が見た目で評価して決定されるのです。
この評価には「BMS(ビーフ・マーブリング・スタンダード)」という基準が使われます。BMSは1~12までの12段階があり、数字が大きいほど霜降りの状態がいいことを示しています(12が最良)。
そして、このBMSの数値にもとづいて、次のように1~5の肉質等級に分けられます。
・BMS1→1等級
・BMS2→2等級
・BMS3~4→3等級
・BMS5~7→4等級
・BMS8~12→5等級
つまり、簡潔にまとめると、5等級は見た目が美しく、きめ細かな霜降りがたっぷりの状態の肉であるということになります。一方で、1等級は、霜降りよりも赤身の部分が大半を占めている肉ということです。