2025(令和7)年9月、東京都で「第一子保育料無償化」が始まりました。子育て世帯にとって大きな前進となるこの制度ですが、手放しで喜ぶにはまだ課題も多いようで……。同制度の詳しい内容と無償化にともなう家計全体の影響について、具体的な事例をもとにみていきましょう。石川亜希子CFPが解説します。
結局なにも変わらないのかな…世帯年収1,000万円の49歳女性、東京都の「保育料等の第一子無償化」に冷ややかな目【CFPの助言】
保育料無償化でも“ゆとりなし”の過酷な現実
しかし、うらやましいことばかりではありません。Aさんが子どもを保育園に通わせていた15年前と現在を比べると、暮らしにかかるあらゆるコストは確実に上がっています。
まず、物価を見てみましょう。最新の消費者物価指数(2020年基準)によれば、2025年8月分の総合指数は約112.1。一方、2010年当時は約94.6です。
この指数は、2020年の物価を100とした場合の相対的な数値を示しています。これをみると、2010年から2020年までの10年間より、2020年から2025年までの5年間のほうが上昇率が高く、近年より急激に物価が上がっているということがわかります。
個別の指数をみても、いずれも軒並み上昇しています。
また、子育て世帯に大きな影響をおよぼしているのが住宅事情です。2025年8月、首都圏の新築分譲マンションの平均価格は1億325万円ですが、2010年当時の平均価格は約4,716万円。当時としても決して低くはない水準でしたが、15年のあいだに価格は2倍以上となり、いまでは「同じ広さ・同じ質」の住まいを手に入れることが難しくなっています。
つまり、たとえ保育料が無償となって「浮いたお金」ができたとしても、それだけで家庭に経済的なゆとりが生まれるわけではないのです。光熱費や食費、住居ローンに家賃、さらには教育費が、家計をじわじわ圧迫しています。
保育料無償化は子育て支援という観点としては大きな一歩ですが、あくまで支援策のひとつであるという認識が必要です。子育て世帯に限らず、すべての世帯を取り巻く「生活全体のコスト増」にも目を向けなければなりません。
「私のころは保育料が高かったし、制度も整ってなくて本当に苦労した。だけど、いまは物価も上がってるし、教育費だって昔よりずっとかかる。結局、どの世代も違う形で苦労しているのかもしれない……じゃあ、結局なにも変わらないのかな」
