不動産価格が高騰を続ける昨今、タワーマンション(以下、タワマン)に住むことは“一種のステータス”だといえるでしょう。しかし、「タワマンに住む」ことに執着しすぎた場合、日々の生活の質や家族の幸福が犠牲になってしまうかもしれません。「湾岸タワマン」を購入した40代夫婦の事例をもとに、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。※個人の特定を避けるため、登場人物の情報等は一部変更しています。
「やめとけ」という周囲の声を無視…ペアローン7,000万円で「湾岸タワマン」を買った世帯年収1,000万円・40代夫婦の本音【CFPの助言】
住み替え後の具体的なシミュレーション
A夫婦の場合、現在住んでいるタワマンを売却するためにはまず、ローンを返済している銀行に相談する必要があります。
Aさんは先行して、いくつかの不動産会社に部屋の売却価格を照会したそうです。その結果、もっとも高い売却価格では、諸税費用を差し引いても手元に約1,500万円の売却益が残る計算となりました。
Aさんは「娘が目指す私立中学の近く、教育環境に適した賃貸マンションに引っ越して、娘が大学を卒業するころ手ごろな住宅を購入したい」と話します。
そこで筆者は、夫婦が給与水準を維持できるかつ、売却益が約1,500万円という前提で、娘の教育費を含めた住み替え後の家計を試算。その結果、月19万円までの家賃であれば問題なさそうでした。
また、娘が大学を卒業するころに家を買う場合、現金で一括購入か、住宅ローンを組むとしても定年退職までに完済できる価格の住宅が適しているでしょう。
老後の生活は、65歳以降は月22万円、68歳以降は夫婦で31万円の見込みの老齢厚生年金に加えて、退職金と貯蓄とで考えます。どちらにしても、約10年後にはそのときの家計と資産状況で再度老後の試算が必要です。
転居のベストタイミングは「いま」
なお、タワマンに住み続けるケースを試算したところ、娘の教育費を考慮すると、現在の夫婦の収入では心もとなく、娘の大学入学のタイミングで家計破たんの可能性がありました。
また家計が危なくなってから売却しようとしても、不動産価格の下落リスクや家計の足元を見られた結果、1,500万円の売却益は望めない可能性もあります。
やはり、いまが転居を考えるタイミングといえるでしょう。
臨機応変なプラン設計が大切
夫婦は、娘にとって環境の整った賃貸住宅を探しはじめました。家計や景気動向を見極め「湾岸タワマン」のステータスを捨てて、次のステップに移る決断をしたのです。
「年収1,000万円で1億円の家を買う」と聞くと、どうしても無謀に感じます。しかし、明確な意図・目的があり、なおかつライフステージに応じた臨機応変なプラン設計があればその限りではありません。今回紹介したA夫婦のように、自分たちが望む将来のため、都度ライフプランを見直す意識を持つことをおすすめします。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員