悲しみに暮れるAさんを待ち受けていた“第二の悲劇”

しかし、Aさんの悲劇はこれで終わりませんでした。

Bさんの死亡当時(2025年)、Aさんの老齢基礎年金は年間62万円程度(77万円から19.2%減の額)でしたが、65歳になるまで、新たに発生した遺族厚生年金(165万円)とすでに繰上げした老齢基礎年金(62万円)のうち、どちらかしか受給できないのです。

そのため、Aさんは渋々老齢基礎年金よりも高い遺族厚生年金の受給を選択することになり、そこから老齢基礎年金は支給停止になってしまいました。

65歳以降は「減額された老齢基礎年金」と遺族厚生年金(寡婦加算なしの102万円)をあわせて受給できますが、65歳までの3年間は、せっかく繰上げした老齢基礎年金を受給することができません。

老齢基礎年金を繰上げしていなければ、3年間の老齢基礎年金の調整はなく、65歳以降「減額されていない老齢基礎年金」と遺族厚生年金で受給できるところだったのでした。

繰上げの注意点はしっかり確認を

Aさんは繰上げ受給を申請する際、年金事務所で遺族厚生年金との調整についてもきちんと説明を受けています。

しかしその当時、Aさんは夫Bさんが亡くなるとは夢にも思わず、その説明については軽く聞き流し、そのまま繰上げの手続きを進めていたのでした。

またAさんがネットで見た情報は、繰上げによる減額率の緩和のことばかりが取り上げられ、遺族厚生年金との調整の注意点については特に触れられていませんでした。そのため、Aさんはこの点を深く考えていなかったのです。

繰上げをしていなければ、65歳までは遺族厚生年金(165万円)のみを受給し、65歳以降も減額なしの老齢基礎年金(77万円)と遺族厚生年金(102万円)の合計(179万円)で受け取れることになっていました。

しかし繰上げの結果、3年間の調整が発生したことから、遺族厚生年金も含めて受給累計額の逆転時期を見ると、69歳3ヵ月頃となりました。当初想定していた82歳前と比べると、逆転時期がかなり早まっていることがわかります。

「細かいところをきちんと確認しなかった自分が悪いのはわかっています。けれどネットでは『繰下げは損』『繰上げは得』という情報ばかり取り上げられているから……正直騙された気持ちです」と後悔を口にするAさん。

繰上げ受給は減額率についてはよく強調されますが、減額率そのものだけでなく、遺族厚生年金のような他の年金との調整などその他の注意点についても理解しておくことが大切です。長くなることも想定される年金生活。自身の受給見込額や自身に関係する制度上の注意点は、あらかじめ慎重に確認しておきましょう。

五十嵐 義典
CFP
株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役