「元気なうちになるべく早く年金を受け取りたい」と考える人にとって、年金の繰上げ受給は有効な選択肢でしょう。また、繰上げの減額率が緩和されたことで「年金繰上げはお得」というイメージも広まっているようです。しかし、安易な繰上げ受給は思わぬ悲劇を招くかもしれません。インターネットの情報から年金繰上げを選んだ62歳女性の事例をもとに、年金繰上げ受給に潜む“落とし穴”をみていきましょう。五十嵐義典CFPが解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
年金繰上げ受給を後悔しています…1年前から年金受給を開始した62歳女性「ネットに騙された」と恨み節【CFPの助言】
“ネットに踊らされた”62歳女性の悲劇
今回紹介するAさんは、国民年金のみに加入していた専業主婦です。彼女は長い間、国民年金の第3号被保険者でした。
そんなAさんは61歳になる2024年、スマートフォンでニュースをチェックしていたところ、「年金繰上げ受給」という制度を知ります。さらに、「1ヵ月あたりの繰上げ減額率が0.5%から0.4%に下がり、繰上げしやすくなった」という情報も目にしました。
さらに後日、繰上げしなかった場合(65歳開始の場合)と61歳0ヵ月で繰上げした場合の、生涯の受給累計額の逆転年齢が、減額率0.5%では77歳8ヵ月頃だったのに対し、0.4%になったことで82歳前になる、という話も耳にしました。
これを知ったAさんは「年金は受け取れる時に受け取って、元気なうちに使ったほうがいいかもしれない。それに、逆転年齢も82歳なら許容範囲かな」と考えるように。
夫のBさん(当時60歳)は繰上げについて難色を示していましたが、Aさんは自分の年金を自分で使いたいと考え、そのまま61歳0ヵ月での繰上げ受給の手続きを年金事務所で進めます。65歳開始の額より19.2%減額(0.4%×48月)されて受給が始まりました。
Aさんを襲った“第一の悲劇”
繰上げをして自分の年金を自由に使えていると感じたAさん。しかし、繰上げをしてから1年後、Aさんが62歳になって間もなく、Bさんが病気で亡くなってしまいました。
生前、元気に働いていた夫の突然の死に、Aさんは大きな衝撃を受けます。
その後、Bさんが亡くなったことでAさんは遺族厚生年金が受給できることを知りました。Bさんが厚生年金に加入していたため、寡婦加算(65歳になるまで加算)も含めて年間165万円支給される計算です。