親元で暮らし続ける中高年は、かつて「子ども部屋おじさん・おばさん」と揶揄されることもありました。実際には、自立が難しい背景にはさまざまな事情があります。しかし、離婚やリストラなどで親に頼ったまま社会復帰ができない場合、年金生活を送る高齢の両親に経済的な負担が及ぶことも少なくありません。今回は、離婚して実家に戻ってきた40代後半の息子と同居する70代夫婦の事例をもとに、子どもへの支援のあり方についてCFPの松田聡子氏が解説します。
「ただいま…」〈年金月22万円〉〈貯金4,000万円〉70代夫婦の穏やかな老後が一変。原因は47歳“ロスジェネ”息子の帰還【CFPの助言】
「47歳の息子が戻ってきた…」70代両親の困惑
松本健一さん(仮名・75歳)と妻の文子さん(仮名・72歳)は、年金月22万円と4,000万円の貯蓄で、つつましい老後生活を送っていました。健一さんは元会社員、文子さんは長年専業主婦として家庭を支えてきた、ごく普通の夫婦です。
そんな穏やかな生活が一変したのは、昨年の春のことでした。息子の徹さん(47歳)から電話がかかってきたのです。
「お父さん、お母さん……実は、離婚することになった。しばらく実家に帰らせてもらえないか」
徹さんは就職氷河期世代で、大変な苦労をしてきました。新卒時の就職活動では100社以上受けても内定がもらえず、ようやく入社できた中小企業も倒産。その後も転職を繰り返し、安定した職に就けないまま45歳を迎えていました。
離婚の原因は、またしても徹さんの失業でした。妻からは「子ども二人ならなんとか私が養うけれど、あなたまで養うのは無理。養育費はいらないから別れてほしい」と言われたそうです。12歳と10歳の孫二人は、元妻と一緒に元妻の実家で暮らすことになりました。
「息子がふがいないのはわかる。でも、就職氷河期で本当に大変だった世代だから……」健一さんはそう語ります。文子さんも「家で立ち直らせてあげたい」と息子を受け入れました。
ところが、実家に戻ってからも徹さんの就職活動はうまくいきません。コンビニの夜勤、警備員、倉庫作業……。せっかく見つけた仕事も3~6ヵ月で辞めてしまいます。「人間関係がきつい」「体がもたない」理由はさまざまですが、結局は自分の部屋で過ごす時間が長くなり、生活費も家に入れない状態が続いています。
夫婦二人なら月20万円で済んでいた生活費は、息子が加わることで月26万円に増加。年金だけでは生活できなくなり、毎月貯金を切り崩す生活です。
そんな矢先、健一さんが腎臓病で入院することになりました。以前から腎機能に不安があり、食事にも注意していたのですが、ストレスなどで悪化してしまったようです。自立できない徹さんを抱えた状態で健一さんが病気になると、経済的な不安が一気に募ります。
「4,000万円の貯金があるから大丈夫だと思っていたけれど、このペースだと……」文子さんの表情は曇るばかりです。