親元で暮らし続ける中高年は、かつて「子ども部屋おじさん・おばさん」と揶揄されることもありました。実際には、自立が難しい背景にはさまざまな事情があります。しかし、離婚やリストラなどで親に頼ったまま社会復帰ができない場合、年金生活を送る高齢の両親に経済的な負担が及ぶことも少なくありません。今回は、離婚して実家に戻ってきた40代後半の息子と同居する70代夫婦の事例をもとに、子どもへの支援のあり方についてCFPの松田聡子氏が解説します。
「ただいま…」〈年金月22万円〉〈貯金4,000万円〉70代夫婦の穏やかな老後が一変。原因は47歳“ロスジェネ”息子の帰還【CFPの助言】
深刻化する8050問題~就職氷河期世代を抱える親の現実
松本夫妻のような状況は「8050問題」と呼ばれる、全国で深刻化している社会問題の一例です。80代に近い親が50歳前後の子どもを支えなければならない状況を指しています。
この問題の背景には、就職氷河期世代の存在も関わっています。現在41~55歳にあたるこの世代は1,700万人以上が該当し、1993年から2005年頃の厳しい就職難を経験しました。バブル崩壊後の不況で企業の採用が極端に絞られ、優秀な人材でも正社員として就職できない状況が続いたのです。
就職氷河期世代の不本意非正規雇用の割合(2018年)は14.1%で、全体平均の12.8%を上回っています。不本意非正規雇用とは「正社員で働きたいけれども、正規の仕事がないから」という理由で、やむなく非正規雇用で働いている状況です。一度つまずくと正社員への道は険しく、非正規雇用を転々とするうちに年齢を重ね、ますます就職が困難になるという悪循環に陥っているのです。
このような苦境に立つ氷河期世代の子を持つ親の多くは、立ち直りを期待してできるだけ援助したいと考えます。しかし、年金生活者の親が40代で無職の子どもを抱えてしまうと、家計は大幅な赤字になるでしょう。
松本夫妻のように4,000万円の貯蓄があっても、いずれ底をついてしまいます。さらに、健一さんのように慢性疾患がある場合、継続的な治療費がかかり、将来的な介護費用も視野に入れる必要があります。
徹さんが実家に戻って衣食住が保証されたために、自立への切迫感が薄れてしまうのも大きな問題です。親の援助に甘え、実家にこもりがちになると、ますます就職が困難になります。だからといって、徹さんを両親が突き放せば、却って問題が悪化してしまうでしょう。
両親の健康リスクも高まる状態では、徹さんの一日も早い自立が求められます。そのためには、どんな対策が考えられるでしょうか。