「共生型自立支援」~家族で築く現実的な解決策

松本夫妻のような状況に陥った場合、自立のために徹さんを家から「追い出す」のは、得策とはいえません。むしろ、徹さんはまだ完全に引きこもっているわけではないので、健一さんの入院を機に一家の「戦力」となってもらうようにしてはいかがでしょうか。

健一さんが入院して、病院への付き添いや家事を文子さんが一人で担うのが大変なことは、徹さんも理解できるはずです。まずは買い物や洗濯物の取り込みなど、できそうなことを頼んでみましょう。文子さんの負担も軽減できるだけでなく、徹さんにとっては自立への大きな一歩となります。

就労については、家族の状況を考え、高収入を得るより継続できることを重視しましょう。徹さんはこれまで、家族を養うために工場での夜勤など、体力的にきつい仕事を選んでは挫折を繰り返してきたといいます。今後、高齢の両親との生活を考えると、収入面では高望みをせず、安定して続けられる仕事に就くほうが得策です。そのうえで、毎月5万円程度の生活費の分担ができるようになれば、両親の経済的な負担も軽くなります。

高齢の両親を助ける役割を果たしながら、家計の一部も担えるようになれば、徹さんは「家族に必要な存在」となり、自己肯定感を得られるようになるでしょう。また、両親亡き後にも、自立して生活できる可能性が高まります。

このような計画の実現には、公的な支援の活用が有効です。全国の主要なハローワークには、就職氷河期世代向けに専門窓口が設置されています(就職氷河期世代の方々への支援のご案内)。応募書類の書き方支援や模擬面接も実施しているので、積極的に活用しましょう。ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)では、希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識などを習得できます。

また、ひきこもり地域支援センターでは社会福祉士等の資格を有する支援コーディネーターが中心となって、関係機関と連携し、社会参加を支援しています。徹さんのように完全な引きこもりでなくても、就労に不安がある場合は相談してみるとよいでしょう。

氷河期世代の就労問題を解決するには、個人の努力だけでは難しいといえます。公的な支援をうまく活用し、難局を乗り切っていきましょう。

松田聡子
 CFP®