潤沢な資産を持ち、悠々自適な老後を送っているように見える高橋さん(仮称・75歳)夫婦。一見幸せに見えますが、実は「親はお金があるから」と働かず、頼りきりの40代の息子がいます。わが子を放ってはおけないとお金を出し続けた結果、息子は自立からほど遠く、親の老後資金すら奪うようなひと言を言い放ったのです。「お金があれば幸せ」とは限らない家族関係について、具体的な事例とともにCFPの伊藤寛子氏が解説します。
お金なんて持っていない方がよかった…〈資産3億円〉〈年金月33万円〉潤沢な資金を持つ70代夫婦が恐怖。40代ひとり息子が放った「まさかのひと言」【CFPの助言】
親の老後生活も脅かす息子に感じた、後悔と恐怖
ある日、妻の聡子さんはあるパンフレットを眺めながら夫に尋ねました。
「ねえ、あなた。この施設どう思う?」
聡子さんが見せてきたのは、夫婦が密かに憧れていた高級老人ホームの案内でした。入居一時金2,000万円、月額費用は30万円。高橋さんも「景色の良い部屋で、安心して過ごせるのも良いな」と夢を膨らませていました。
ところが、横で聞いていた健一さんが「そんな贅沢をする金があるなら、俺に残してくれよ」と言い放ったのです。
「親の老後資金まで、自分のものだと思っているのか」
夫婦は我慢の限界に達しましたが、同時に「息子をここまで甘やかしてしまったのは、私たちの責任ではないか」という重い後悔がのしかかりました。
「我々が死んだ後、あの子は一人で生きていけるのか? 残した財産をあっという間に使い果たすのではないか?」と恐怖が夫婦を襲いました。
息子が自立できない問題の本質とは…
自分たちだけでは、もうどうすることもできないと感じた二人は、資産家の相続問題に詳しいファイナンシャルプランナー(FP)を訪ねました。
高橋さんはこれまでの経緯と、「もうこれ以上息子にお金を渡したくない」「自分たちの老後のためにお金を使いたい」という思いを打ち明けました。FPは耳を傾けた後、こう切り出しました。
「問題なのは、親の援助を『当たり前』にしてしまったことです。そのうち働くだろうと援助の目的や期限、金額を決めずに続けてしまった結果、健一さんの中で『親の支援=当然の権利』と誤った認識が根付いてしまったのでしょう。それと、幼い頃から『困った時は親が助けてくれる』という経験を重ねたことで、金銭感覚が育たず、自分で稼ぐ必要性を感じる機会も失われてしまったのかもしれません」
さらに、夫婦が働かない息子の現状を認めたくない気持ちから問題を先送りしたことで、長期的な依存を招いてしまったのではないかという点も指摘。財産については、「相続できるのが当たり前ではない」と強調したうえで、「資産はご夫婦のものであり、生前にどう使うかは自由です。遺言等によってお子さんへの渡し方を工夫することも可能です」と助言しました。