移住2年、東京への帰還を決断

気づけば、年間の生活費は都内時代より約30万円も増加。Aさん夫婦は、楽しいけれど、これまでとは勝手の違う生活に、次第に都内での便利で自由な暮らしを懐かしむように。

「病院が思ったよりも少ない。これから体が弱ってきたら大変かもしれないな……」生活環境が変わったことで、体調の変化を意識するようになったAさんは健康面でも不安に思うことが増えました。

「のんびり暮らすはずが、逆に心配事が増えたんじゃないか……。軽井沢移住は辞めるべきでしたよ」とAさんは肩を落としました。夫婦は、移住からわずか2年で東京に戻ることを決断したのです。

移住が招く“資産寿命”のリスク

Aさん夫婦の失敗は特別なものではありません。移住をすると、生活の前提が大きく変わる可能性があります。

・インフラ維持費:薪ストーブや浄化槽など、都市部では不要だった支出

・生活費の季節変動: 冬場の暖房費など、季節による固定費の急増

・医療や交通アクセスの制約:高齢になるほど「不便さ」はリスクに直結

リタイア後は、収入の多くが公的年金となり、不足分を資産から取り崩す生活が始まります。生活費が想定より増えれば、取り崩しスピードが速まり、資産寿命が縮むリスクが高まるでしょう。このリスクは、リタイア前の40〜50代から備えることが可能です。

夢を叶える準備

では、どうすれば後悔を避けられるのでしょうか。大切なことは、「夢」と「数字」をリンクさせる準備です。リタイア前の40〜50代から準備を意識できると、後悔を減らせます。ポイントは下記の3つ。

・ライフプランから理想的なお金の使い方を明確にする

・年間の取り崩し可能額を把握する

・取り崩し可能額から想定される生活水準を確認する

後悔のないマネープランをつくるためには、

・どのようなシーンで、どのように使いたいのか

・万が一の際には、どのように使いたいのか

・万が一の際には、どのように残したいのか

など、自分がこれからどのようにお金を使っていきたいのか、長い時間軸で「自分の理想」を理解しておく必要があります。

特に、入院や介護、認知症、相続など、万が一のシーンを想定しておくことは重要です。人生の晩年に自身の尊厳に影響を与える可能性があるからです。お金は日常的に必要になる分、自分軸がないとあっという間に使い切ってしまう可能性があります。もし、万が一の際に確保しておきたいお金があるのであれば、それは「守るべきお金」です。生活費の工面や夢を叶える計画は、それらのお金を除いた資金で考える必要があります。

もし算出された取り崩し可能額では、望む生活水準を送れない、といった場合は要注意。ライフプランとファイナンシャルプランに整合性がないサインです。夢を現実に近づけるためには、どの程度不足しているのかを確認したうえで、1から繰り返しの計画の再検討が不可欠といえるでしょう。大切なのは、理想を描くだけではなく、それを支える現実的な数字と向き合って準備することです。

あなたの夢に必要なお金は“いくら”ですか? 理想の暮らし方と取り崩すスピードは噛み合っていますか?

夢は準備次第で叶います。後悔のないセカンドライフのために、「資産寿命」と向き合ってみませんか。

内田 英子
FPオフィスツクル代表