会社員時代は会社の経理が担ってくれていた税金の計算や支払いも、定年後は「自己責任」で処理する必要があります。そこで大切なのが、定年後の自分が対処しなければならない項目を、前もって把握しておくことです。今回の記事では、多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が、定年退職までに知っておきたい必要な税金の計算方法や注意点について解説します。
いままでは会社が手続きを行っていてくれたが…定年までに知らないと損をする「定年後の税金」【税理士が解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

メリットの大きい「年金繰下げ受給」の注意点

 

では、定年後年金受給が始まったあと、税金は具体的にいくらかかるのでしょうか。

 

65歳以上で合計所得が1,000万円以下の場合、公的年金控除は110万円となります。基礎控除額が48万円ですので、年金収入が年158万円以下であれば所得税はかからないこととなります

 

1ヵ月繰下げるごとに0.7%増額…年金の「繰下げ受給」のしくみ

平均寿命が延び続けている昨今、「年金繰下げ受給」を検討している方も多いでしょう。

 

年金の受給時期を繰り下げるメリットは、なんといっても年金受給額が「増額」されることでしょう。繰下げ受給では、本来の受給年齢である65歳から、1ヵ月繰り下げるごとに0.7%ずつ増額されます。70歳まで5年繰り下げると42%の増加、75歳まで10年繰り下げた場合は84%も増加されます。

 

夫婦2人の標準的な年金受給月額約23万円をもとに考えると、繰下げ受給を行った場合の年金額は下記のようになります。

 

年金受給開始:65歳(原則どおり)……約23万円/月 

年金受給開始:70歳(5年繰り下げ)……約32万円/月

年金受給開始:75歳(10年繰り下げ)……約42万円/月

 

5年繰り下げた場合は月あたり約9万円、10年繰り下げた場合は月あたり約19万円と、本来の受給額から大幅に増額することが可能です。

 

もし、老後のための蓄えがある程度貯まっている、65歳以降も収入の見込みがある場合は、繰下げ受給を選択することで「長生きによる老後資金の枯渇リスク」を気にすることなく安心して過ごすことができるでしょう。

 

ただし、繰下げ受給を選択した場合、「税金の負担が増える」ことには注意が必要です。

 

厚生労働省の令和4年度の資料によると、国民年金の平均受給額は5万6,428円となっています。この場合10年繰り下げて75歳から受給しても、受給額は10万3,827円で年間158万円以下となるため、所得税はかかりません

 

一方、厚生年金(国民年金を含む)の平均受給額は月額14万4,982円となっています。基礎控除以外の控除がないと仮定した場合、所得税は8,100円、住民税は2万3,400円で合計3万1,500円かかります。

 

もしも受給開始を5年繰り下げ70歳から年金を受給した場合、月額は20万5,874円となり所得税は4万5,400円、住民税は9万6,500円の合計14万1,900円となります。

 

10年繰り下げ75歳から受給した場合、月額は26万6,766円で所得税は8万2,700円、住民税は16万9,600円の合計25万2,300円となります。

 

このように、年金の受給開始時期を繰り下げれば繰り下げるほど年金が増えるとあって、一見メリットの大きい税金の「繰下げ受給」ですが、繰下げるごとに税負担が増えることに注意が必要です。

 

定年後に慌てないように

会社員の場合、会社が年末調整で税金を計算してくれていたことから、税金について深く考えたことがない方も少なくないでしょう。しかし、定年退職後は、基本的には自分の税金は自分で申告を行う必要があります。

 

また今回見てきたように、年金をいつから受給するかによってかかる税金額も大きく変わるため、年金受給の「ベストなタイミング」についてもよく検討されると良いでしょう。

 

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

 

 

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士/CFP