多くの人にとって、住宅ローン完済は、人生における大きな山場を乗り越える瞬間でしょう。長年の苦労が報われ、ようやく手にした平穏な日々。しかし、その達成感の先には、新たな困難が待ち受けています。本記事では、Aさんの事例とともに、ローン完済後の資金計画について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
やっと肩の荷が下りた…「住宅ローン完済」「息子の独立」ささやかな祝杯を挙げた60代夫婦。年金20万円の倹しい老後計画を“一撃粉砕”した、想定外の出費【FPが解説】
持ち家のみえないコスト…住宅ローン後にのしかかる維持費
住宅ローンが終わっても、家を所有し続ける限り「維持費」は発生します。マンションなら管理費や修繕積立金。一戸建ての場合、毎月の固定費はありませんが、外壁や屋根の修繕、シロアリ予防など、快適に住み続けるためのメンテナンス費用が十数年に一度、まとまって必要になります。そのほかにも、家電の買い替えや給湯器、水回りの故障など、突発的な出費が家計を圧迫する可能性は常にあるでしょう。
定年3年後に届いた「450万円」の請求書
Aさん夫婦が一戸建てで暮らし始めてから、大きなメンテナンスは一度もしていませんでした。そして定年から3年後、想定外の大雨で、ついに雨漏りが発生してしまいます。後回しにできず、慌てて業者に見積もりを依頼したAさん。すると、屋根だけでなく、長年手つかずだった外壁の目地も劣化しており、このままでは次の台風でさらに深刻な雨漏りに繋がる恐れがあると指摘されます。
業者から提示された見積もりは「450万円」。物価高騰の影響もあり、予想を遥かに超えた金額に、Aさん夫婦は驚きを隠せません。退職金の300万円だけでは、まったく足りないのです。不安がなくなったはずの老後生活に、最大の危機が訪れました。
「ローン完済後」から始める、本当の資産計画
家を所有し続ける限り、維持費からは逃れられません。特に築年数が経つほど出費は増えやすく、後回しにしがちなメンテナンスを放置すると、Aさんのように想定外の事態で深刻な状況に陥ることもあります。
「ローン完済」はゴールではなく、新たなスタートです。これからは専門家にも相談しながら、将来必ず発生する家の維持費も視野に入れた、現実的な資産形成の見直しが不可欠と言えるでしょう。
〈参照・出典〉
・国土交通省:令和6年度 住宅市場動向調査報告書
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001900667.pdf
・公益財団法人生命保険文化センター:リスクに備えるための生活設計
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1141.htm
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表