「安定した国家公務員」として自衛隊に勤務し、世の中に貢献してきた誇りある元幹部自衛官。しかし、定年の早さ、全国転勤による住宅購入の遅れ、退官後の再就職難が重なり、退職金は急速に減少しました。さらに制度改正の有無によって老後の見通しが大きく変わる現実もあります。本稿では、FPの三原由紀氏がその実情を追います。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「国家公務員は安泰」じゃなかったのか…退職金2,500万円で定年を迎えた“誇り高き元陸上自衛官”に迫る「老後資金枯渇」の影【FPが解説】
「想定外」の連鎖 ―なぜ2,500万円が8年で半減したのか
加藤さんの老後資金が急減したのは、いくつもの「想定外」が重なったためです。
まず最大の要因は退官後の収入減。現役時代の年収650万円から、再就職後は350万円へと大幅に下がりました。しかも1年更新の嘱託契約で、正社員の道は事実上閉ざされていました。(※2024年10月から1佐の定年は58歳に延長。収入は1年増える一方、再就職開始年齢が遅れるリスクも伴います)
次に重くのしかかったのが月10万円の住宅ローン。全国転勤のため購入が遅れ、退官直前に3,500万円のローンを組んだことが裏目に出ました。退職金で一部返済しても、72歳まで続く固定費は家計を圧迫しました。
さらに、当時の勤務先規模では厚生年金に加入できず国民年金のみ。将来の年金を増やす機会も逃していました。退官後の数年間は、再就職収入と妻のパート収入に頼りながらも、退職金を取り崩して住宅ローンを返済する苦しい生活でした。
そして現在、65歳になった加藤さんには月16万円の年金が入り、妻が65歳になるまでは加給年金も加算されます。これに妻のパート収入と自身の給与収入が加わり、ようやく家計は落ち着きを取り戻しつつあります。とはいえ住宅ローン月10万円が残っているため、「完済までは働き続けたい」というのが加藤さんの本音です。
「毎月家計簿を見るたび退職金の残高が減っていくのがつらかった。このままでは底をつくという恐怖感が常にありました」と加藤さんは振り返ります。退職金は生活費だけでなく修繕費や医療費、冠婚葬祭費など突発的な支出にも充てねばならず、想像以上のスピードで減っていったのです。