「かわいい孫のためなら」そんな善意から、長男と次男の家族に総額1,300万円以上を援助してきた大西さん(仮称・73歳)。一方で、未婚で子どものいない長女にはまとまった資金援助の機会がなく、「私だけ何もしてもらっていない」と不満が積み重なっていました。やがて、その不公平感がきょうだい間に亀裂を生むことに――。具体的な事例と共に、不公平な援助のリスクと対策についてCFPの伊藤寛子氏が解説します。
「わたしだけ何ももらえなかった…」長女の積怨。貯蓄7,000万円・年金月30万円・73歳父「孫への愛」が生んだ〈思わぬ事態〉【CFPの助言】
「かわいい孫のため」よかれと思い援助を重ねてきたが…
大西さん(73歳・男性)はかつて大手企業に勤務していました。60歳で定年退職した後、系列企業の役員を経て65歳で完全にリタイアしました。
退職金と現役時代の蓄えを合わせると、リタイア時点で約7,000万円の貯蓄と、夫婦で月約30万円の年金。住宅ローンも返し終わっているため、老後資金にはそれなりの余裕があります。
大西さんには長男・次男・長女と3人の子どもがいますが、それぞれ独立しており、現在は妻とふたり暮らしです。子どもたちが巣立った今、大西さんの何よりの喜びは孫の存在でした。
長男と次男は結婚して家庭を持ち、それぞれ子どもが2人ずついます。孫が誕生するたびに、大西さんは出産祝い、七五三、入学祝いを送り、マイホームを購入する際には頭金の一部を援助。さらには孫の受験のための塾代や進学費用など、教育費としてまとまった資金援助も行い、この10年で長男家族には約800万円、次男家族には約500万円を援助してきました。
一方で、長女は未婚で子どももいません。就職して実家を離れて以来、親の助けを借りることはなく、マイホームの購入予定もないことから、大西さんが金銭的援助をする機会はほとんどゼロ。それでも「困っている様子はないから問題ないだろう」と思っていました。
ところが、その思い込みが思わぬ火種になったのです。
金銭的な不公平感が生む、家族間の溝
毎年、長男と次男の家族は年末年始に大西さんのもとへ帰省しますが、長女も含めて全員が揃う機会はなかなかありませんでした。たまたま全員が顔を合わせた今年のお正月、介護が話題にのぼったときのことです。
長女が放った「私は親から何の援助も受けていない。だから、万が一介護が必要になったら、援助を受けている兄さんたちが担うべきよね」という一言に、その場が凍りつきました。
長男は、「みんなそれぞれ仕事も家庭もある。万が一の時はきょうだい3人で協力し合えばいいじゃないか」と返しましたが、長女は「これまで散々援助してもらったでしょう。その分を担うのが当然よ」と一歩も譲りません。 今まで表面化していなかった兄妹間の溝が、あらわになったのです。
大西さんとしては、純粋に「孫のために」と行ってきた援助。しかし、その裏で、長女は「自分だけ援助されていない」という不満を溜めこんでいたのでした。