早期退職者に共通するリスクと備え方

加藤さんの事例は自衛官に限ったものではありません。すべての企業では原則65歳までの雇用が義務付けられていますが、自ら早期退職制度を利用して50代で職場を離れる人も少なくありません。一見まとまった退職金が得られるように見えても、その後の再就職は不安定で、老後資金の取り崩しを余儀なくされるリスクがあります。

第一に、収入減の長期化です。再就職後は年収300〜400万円台に落ち込むことも多く、現役時代の生活水準から大きく下がります。公的年金の支給開始は65歳からであり、退職から年金開始までの「空白期間」をどう埋めるかが大きな課題になります。

 第二に、住宅ローンの重圧です。加藤さんのように全国転勤などが多い場合、マイホーム購入が遅れ、退職後もローンが残ると家計を圧迫します。退職金を一部繰上げ返済に充てても、残債が毎月の固定費としてのしかかるのです。

第三に、夫婦間での資金計画の共有不足です。一般的に、教育費や住宅費といった大きな支出が家計にのしかかりますが、夫婦で「老後にいくら必要か」「何を優先するか」を話し合わないまま定年を迎えると、生活設計のほころびが一気に表面化します。加藤さん夫婦のように協力し合えるケースばかりではないのが現実です。

幸い、加藤さんのその後には光明もありました。厚生年金の適用拡大により、昨年から勤務先でも加入できるようになったのです。現在65歳の加藤さんは、厚生年金に加入しながら働き続けており、その分、将来受け取る年金額も少しずつ上乗せされることになります。「70歳までは現役を続けたい」と話しています。

「雇用の保証はありませんが、体が動く限り70歳まで働き続けるつもりです。ようやく老後への不安が少し和らぎました」と話します。

ここから見える教訓は明確です。厚生年金に加入できる働き方を選ぶこと、退職前から第二の職業人生を設計すること、住宅ローンは現役時代に完済を目指すこと、そして夫婦で家計の見通しを共有すること。

「『公務員だから安心』という従来の常識が通用しない時代になりました。定年が延びても、油断はできません。自分の働き方や家計を見直して、早めに備えてほしい」と加藤さんは後輩たちにエールを送ります。

三原 由紀
プレ定年専門FP®