開業ラッシュの一方で進む「淘汰」
多額の費用と労力をかけ、各方面のプロから多くのアドバイスをもらい、満を持してのクリニック開院…。それなのに、サッパリ集患できない。そんな院長の嘆きや怨嗟の声が、日本各地から聞こえてきます。なぜ、患者たちは、あなたのクリニックを選ばないのでしょうか?
理由はさまざまですが、まず主な要因として、以下の点が挙げられます。
競合の激化
競合となる複数の内科クリニックが存在し、院長も自院の売りがよくわからず、ひたすら患者の取り合いになっている。
情報過多
インターネットや雑誌等でさまざまな情報が氾濫し、患者がクリニック選びに迷っている。また、クチコミも玉石混交であり、信ぴょう性がない。
受診控え
新型コロナウイルス感染のまん延と、それに伴い一部の疾患ではオンライン診療のウエイトが増加した結果、患者の受診行動が変化した。
生き残り競争を勝ち残るための「目のつけどころ」
このような過酷な状況下で、一般内科クリニックを開業し増患を図るには、従来のやり方にとらわれず、新たな視点を持つことが不可欠だといえます。生き残り競争を勝ち残るための「目のつけどころ」には、どのようなものがあるのでしょうか。
①「心療内科的なスタイル」を取り入れた対応
一般内科クリニックの数は非常に多いため、専門性の明確化を打ち出しても患者増加には直結しません。重要なのは、ほかのクリニックとの差別化です。患者様が再受診をしたり他人へ紹介したりする、という次のステップにつながるのは、受診によって「体が楽になる」「安心を得る」「新たな知識を得る」という心理的な満足がきっかけです。したがって、クリニック側には心理的な配慮のあるコミュニケーションが必須になるのです。
一般内科を受診する患者様は、その人の医学的な疾患名である「身体」のみならず、不安・鬱傾向・不眠などの「精神」の部分、そして、社会に置かれている立場(会社役員、自営業、主婦、失業中など)などの「社会」の3つの軸をとらえた、全人的な診療が好まれます。
そのため、患者様を丸ごと受け入れて否定しないこと、患者様の話をさえぎらずにコミュニケーションの7~8割は「聞く」態度に徹すること、心療内科的な支持的・共感的なコミュニケーションを取ることが重要です。
患者様の身ぶり手ぶりや、マスク越しの表情からも感情をくみ取るスキルが重要です。心療内科・精神科は、対面では初診の予約取得が困難であるため、内科での心理的な初期対応は、患者の満足度が高くなる大きな要因となります。
②患者体験の向上
近年では治療そのものよりも、クリニックでのよい体験・よい印象を重視する傾向にあります。そのため「患者体験」を向上させる工夫も必要です。具体的には、下記のような方法が挙げられます。
予約システムの導入
待ち時間を短縮し、患者様の負担を軽減する。
丁寧な説明
患者様の疑問や不安に寄り添い、わかりやすく説明する。早口でイラついた口調はNG。
アメニティの充実
快適な待合室やキッズスペースを設け、患者様がリラックスできる空間を提供する。
オンライン診療の導入
通院の負担を軽減し、遠隔地の患者様にも対応する。
院内のレイアウトへの配慮
感染対策やバリアフリーへの対応を行う。
③効果的な情報発信
クリニックの存在を患者様に知ってもらうためには、効果的な情報発信が不可欠です。その際には、ターゲット層の明確化がポイントになります。たとえば、高齢者向けにはチラシや地域雑誌・新聞・回覧板への掲載、若い世代向けにはSNS広告などの情報発信を行うことが効果的です。
ホームページやSNSの活用
クリニックの情報を発信し、患者様とのコミュニケーションを図る。
地域社会への参加
地域住民との接点を増やし、クリニックの認知度を高める。可能であれば医師会経由での地域包括支援センターや福祉施設との連携なども、地域密着という観点で認知度が高められる。
クチコミ対策
患者様のクチコミを参考に改善を図り、よいクチコミを増やす。
まとめ
一般内科クリニックの開業・増患は、小児科の例と比較すると、成果が出始めるのはゆっくりです。しかし、コミュニケーションや心理的な配慮を明確化し、患者体験を向上させ、効果的な情報発信を行うことで、生き残り競争を勝ち抜き、地域に根差したクリニックとして認知され、発展していくことは可能です。
そのためには、患者様があなたを主治医として思わず頼りたくなるような、温かく受容的な診療態度で接し、クリニック全体からもそのような雰囲気を醸し出せるよう、工夫することが大切なのです。
武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師

