(※写真はイメージです/PIXTA)

長寿化や価値観の多様化といった社会的変化の影響か、近年ではさまざまなジャンルの職域で、独立開業する方が増えています。組織に縛られるのではなく、経済的にも時間的にもゆとりがあり、何歳まで働くかも自分で決められる働き方が注目されているのです。ここでは、自身も大手法律事務所から独立した経験を持ち、起業のサポートや富裕層への資産形成のアドバイスを行う弁護士が、医師が独立開業するメリットについて解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

雇用されているケースと、独立開業するケース

筆者は国際弁護士として、国外に目を向けたビジネス展開・起業をアドバイスするほか、富裕層の方々に向け、主に海外移住や海外活用を利用した資産形成・資産防衛の提案やサポートを行っており、顧客にはドクターも少なくありません。

 

ドクターには勤務医の方と開業医の方がいますが、相談者となるのは開業医が圧倒的多数です。理由は明快で、開業医の方のほうが、収入も資産も多い傾向にあるからです。

 

とはいえ、仕事をスタートさせる段階では、ほとんどの方がどこかの組織に所属し、給料をもらう立場にあるでしょう。まずは、そのように雇用されているケースと、組織から離れて独立するケースについて、弁護士と医師のケースを例に、比較しながら見ていきましょう。

過酷な仕事に熾烈な出世争い…雇われの身はつらい

法律事務所には、大企業や外資系企業を顧客にして仕事をしている大手法律事務所(病院で例えると、大学病院などの大病院など)、中小企業や個人を顧客にして仕事をしている法律事務所(病院で例えると、中小のクリニックに近い)があります。

 

また、それぞれに、経営者側の弁護士と雇われ弁護士がいます。大手法律事務所では、経営者側弁護士を「パートナー弁護士」と呼び、雇われている弁護士を「アソシエイト」と呼びます。

 

一方、中小法律事務所の弁護士は、「町の弁護士」、略して「町弁」と呼ばれたりします。こういった事務所の経営者弁護士は「ボス弁」、雇われ弁護士は「イソ弁」(「居候弁護士」の略)と呼ばれたりします。

 

 

 

大手法律事務所は都心のインテリジェントビルにあり、なかなか素敵ですが、そこで働く雇われ弁護士たちの日常は過酷です。朝は9時頃の出勤ではありますが、夜は日付が変わるまで仕事をすることも少なくありません。

 

また、海外との取引がある場合は、時差の関係で金曜日深夜に電話会議が組み込まれる…といったことも日常茶飯事です。

 

大病院に勤務する医師の先生方は、救急の患者の対応に、手術、当直と、大手弁護士事務所以上のハードワークでしょう。

 

給与面ですが、大手事務所の新人の年収は1,200万円前後、5~6年勤務すると2,000万円前後です。一見すると高給に思われるかもしれませんが、深夜に及ぶハードワークに、度重なるタクシーでの帰宅、忙しすぎて勤務地近隣に家賃の高いマンションを借りざるを得ないといった事情から、優雅な暮らしとは程遠いというのが現実です。

 

これらの点も、かなり勤務医の方々と近いものがあるのではないでしょうか。

 

では、大手法律事務所の経営者側弁護士(パートナー)になればラクかというと、そうともいえません。パートナー弁護士の年収は5,000万円程度であることが多いのですが、上の方まで登っていく人は、頭脳も営業力もずばぬけた、一握りのトップ・オブ・トップだけです。

 

しかし、それほどまでに優秀な人が心身を酷使して得られる年収が5,000万円程度というのは、ちょっと考えさせられるのではないでしょうか。

仕事の過酷さと収入を勘案すると、独立したほうが…

司法試験に合格すると、弁護士・検事・裁判官のいずれを目指す場合も、司法修習という研修を1年間受けることになります。

 

医師の初期研修に似ているようですが、医師は医学部を卒業する際に国試を受けて合格すれば医師免許を取得できる一方、司法修習生は司法研修を受け、研修の終了時に実施される「司法修習生考試(二回試験)」に合格しなければ、弁護士・検事・裁判官になる資格は得られません。

 

そして、競争を勝ち抜いて大手事務所に就職が決まった司法修士生も、経験を重ねるうちに気づくことがあります。

 

それは、「実は町弁の方がお金を持っていることが多く、自由にお金も時間も使える」ということです。年収3,000万~4,000万円程度の町弁はゴロゴロいますし、5,000万円越えも少なくありません。

 

町弁の場合は節税もしやすく、また、大手事務所の弁護士のような日々深夜に及ぶほどの過酷な労働は、ゼロではありませんが、決して多くはありません。つまり、極めて人間的な生活を送ることができます。

 

町弁に雇われている「イソ弁(居候弁護士)」の場合、給料は500~600万円程度ですが、自分で取ってきた仕事ができるので、3~4年もすると、合計収入(事務所から与えられる給料+自分で取ってくる仕事の収入)は大手事務所の弁護士とほぼ同じになってきます。

 

その後、5年程度の修行で実力と顧客基盤を備えて独立、というのが一般的な道筋です。

 

弁護士になって5年も経つと、さまざまな事情が見えてくることから、大手事務所勤務であっても、独立を考える人が出てきます。

サポートしていて痛感…開業をためらう最大の理由は「現状を変える怖さ」

ここまでのお話で、大手法律事務所(≒大学病院)に勤務するより、独立開業するほうがずっといいのではないか、と思われるのではないでしょうか。

 

しかし、独立にあたっては、乗り越えるべきハードルがもうひとつあります。それは、自身の気持ちです。具体的には、将来への不安と、現状を変えることへの怖さです。

 

筆者は日頃、独立開業をサポートする業務をしていますが、さまざまな条件がそろい、勝機があることがわかってもなお、独立開業をためらう方がいます。

 

将来への不安として挙げられるのはまず、開業資金や顧客確保への懸念でしょう。しかし、この点はサポートを受けながら、税理士や会計士のアドバイスをもとに、金融機関から融資を受けることで、不安を軽減することができます。

 

むしろ現状を変えることへの恐怖こそが、独立へのいちばんのハードルでしょう。大きな組織に所属していれば、そこから離れることに、心細さを感じるのは当然です。そして、ときには「人からどう見えるのか」ということも、気がかりになるかもしれません。筆者も大手法律事務所から独立した経験がありますから、その点はよくわかるつもりです。

 

しかし独立後、経営が軌道に乗って自由になるお金と時間を手に入れられた際には、そのようなためらいは不要だったと思われると思います。

 

人生の時間は限られています。「独立したい」というご自身の気持ちを尊重し、足を踏み出してみてはいかがでしょうか。

 

 

小峰 孝史
OWL Investments
マネージング・ディレクター・弁護士