55歳から準備を始め、難関資格を取得。退職後は独立開業し「人生最後のチャレンジ」に踏み出しました。しかし結果は想定外。かけた時間とお金に見合う収入は得られず、老後資金を減らす事態に――。本稿では、FPの三原由紀氏が資格に頼るセカンドキャリアの落とし穴について解説します。
人生最後のチャレンジ、儚くも散る…〈退職金2,500万円〉〈貯金1,500万円〉〈年金見込額月21万円〉55歳会社員、難関資格合格→独立で「食っていける」はずが、わずか3年で「老後資金700万円消失」に意気消沈【FPの助言】
老後資金は3年で700万円減。「妻のひと言」で決断したのは……
その後も売り上げは伸びず、60歳からの3年間で高橋家の老後資金は約700万円減少しました。生活費は月30万円ほど必要でしたが、妻のパート代と事業収入を合わせても月10万円程度。毎月19万円を貯蓄から補填する形となり、それが3年続いて老後資金が大きく目減りしていったのです。
当時63歳の高橋さんは年金受給開始まで2年、61歳の妻・美恵子さんは4年あり、夫婦ともにまだ年金収入がない時期です。そのため、家計の不安は一層募りました。
夫婦の会話はお金のことばかりになり、穏やかな関係ではなくなりました。長男からも「お父さん、もう諦めたら? お母さんが可哀想だよ」と、率直に言われました。
そして63歳の春、バーチャルオフィスを更新するかどうかを判断する時期が訪れました。そこで美恵子さんは静かに「あなた、お疲れ様でした」と切り出したのです。
「もう十分頑張ったと思う。これ以上続けても、私たちの老後が不安になるだけよ」
その言葉で高橋さんは目が覚めました。事実上の廃業を決断し、活動拠点を自宅に。ビジネスコミュニティも退会しました。
現在65歳の高橋さんは、コミュニティで築いた人脈から時折相談を受ける程度。報酬は1件1~2万円ですが、「人の役に立てる実感がある。資格を取ったこと自体に後悔はない」といいます。
しかし、反省もしているといいます。
「夫婦の将来を考えずに突っ走ったのは、明らかに失敗でしたね。自分だったら、資格さえあればうまくいく。そう思ったのは大きな間違いでした。妻に言われなければ『あと少し頑張れば、稼げるようになるかもしれない』と引き延ばし、老後資金が枯渇していたかもしれません。致命傷にならなかったのは、冷静な妻のおかげ。感謝しています」