老後資金は3年で700万円減。「妻のひと言」で決断したのは……

その後も売り上げは伸びず、60歳からの3年間で高橋家の老後資金は約700万円減少しました。生活費は月30万円ほど必要でしたが、妻のパート代と事業収入を合わせても月10万円程度。毎月19万円を貯蓄から補填する形となり、それが3年続いて老後資金が大きく目減りしていったのです。

当時63歳の高橋さんは年金受給開始まで2年、61歳の妻・美恵子さんは4年あり、夫婦ともにまだ年金収入がない時期です。そのため、家計の不安は一層募りました。

夫婦の会話はお金のことばかりになり、穏やかな関係ではなくなりました。長男からも「お父さん、もう諦めたら? お母さんが可哀想だよ」と、率直に言われました。

そして63歳の春、バーチャルオフィスを更新するかどうかを判断する時期が訪れました。そこで美恵子さんは静かに「あなた、お疲れ様でした」と切り出したのです。

「もう十分頑張ったと思う。これ以上続けても、私たちの老後が不安になるだけよ」

その言葉で高橋さんは目が覚めました。事実上の廃業を決断し、活動拠点を自宅に。ビジネスコミュニティも退会しました。

現在65歳の高橋さんは、コミュニティで築いた人脈から時折相談を受ける程度。報酬は1件1~2万円ですが、「人の役に立てる実感がある。資格を取ったこと自体に後悔はない」といいます。

しかし、反省もしているといいます。

「夫婦の将来を考えずに突っ走ったのは、明らかに失敗でしたね。自分だったら、資格さえあればうまくいく。そう思ったのは大きな間違いでした。妻に言われなければ『あと少し頑張れば、稼げるようになるかもしれない』と引き延ばし、老後資金が枯渇していたかもしれません。致命傷にならなかったのは、冷静な妻のおかげ。感謝しています」