「会社の看板なしでも生きていけるように」55歳からの一大チャレンジ

千葉県郊外のニュータウンに住む高橋正人さん(仮名・65歳)は、大手電機メーカーで35年間営業職を務めました。退職金2,500万円、貯金1,500万円、老後の公的年金見込み月21万円。さらに妻の美恵子さん(仮名・63歳)はパート主婦、子どもたちは既に独立済。まさに「勝ち組」の老後を迎えるはずでした。

しかし、遡ること10年前。当時55歳の高橋さんは、将来に一抹の不安がありました。

「先輩を見ていると、60歳から継続雇用になった途端に『お荷物扱い』される人も多かった。給料は半分以下、やりがいある仕事は回ってこない。それでいいのだろうか」

それなら、自分の力で勝負をしてみたい――。そんなときに目をつけたのが、中小企業診断士という難関資格。合格率4%程度の狭き門ですが、営業で培った経営感覚を活かせると考えました。しかし、妻は当初反対していました。

「継続雇用で5年働けば1,800万円近く稼げるのに、なんでわざわざ冒険するの?」

しかし、高橋さんは譲りませんでした。「資格を取れば65歳を過ぎても稼ぐことができる。無駄なチャレンジにはならない」……結局、妻は熱意に押され、予備校の講座代40万円を家計から捻出することに。

その後、高橋さんは、週末には予備校通い、平日も帰宅後2~3時間の勉強。経営学、経済学、会計学、IT、法務……。幅広い分野を学び直すのは、55歳の脳には想像以上にハードだったといいます。

「若い頃のように一度読んだだけでは頭に入らない。同じ箇所を何度も繰り返す作業の連続でした」

1年目、2年目と不合格が続き、追加の受験料や模試代、オプション講座費用も毎年数万円ずつかかりました。結果として、資格取得までの総投資額は100万円を超えました。

それでも高橋さんは諦めず、5年間の努力の末、60歳直前でついに合格。定年退職とほぼ同時に会社員生活に別れを告げ、念願の独立開業へ踏み出しました。