東京商工リサーチによると、2024年に「早期・希望退職」を実施した上場企業は57社(募集人員は約1万人)でした。これは前年比3倍超と、早期・希望退職を促す企業が増えていることがわかります。そんななか、自ら進んで早期退職した会社員の水戸さん(仮名・55歳)の事例をもとに、早期リタイア後に潜む「思わぬ落とし穴」のリスクとその対策をみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。
俺より金ないくせに…退職金3,000万円に飛びつき早期退職した55歳男性「資産1億円」も心から笑えない→1年後、元同僚に「もう一度働かせてください」と頭を下げたワケ【CFPの助言】
趣味は節約と資産運用…念願の「FIRE」を実現した男性
千葉県在住の水戸さん(仮名・55歳)は、10年以上前から抱いている夢がありました。それは、資産を築いて定年前に会社を辞めること。
水戸さんは独身ですが、一切の無駄遣いをすることなく日々の生活費を切り詰め、浮いたお金はすべて資産運用に充ててきました。
水戸さんには「資産が1億円を超えたら会社を辞める」という、明確な目標があったのです。
そのため、相場の波に翻弄されながらも長期的には着実に資産を増やし、55歳の時点でその残高は約7,000万円に達していました。
そんなある日、勤務先から「希望退職募集」の知らせが届きます。知らせを読むと、退職金は通常より割増しで支給されると書いてありました。
水戸さんは周囲に希望退職に応募するか尋ねてみたところ、同僚たちは一様に首を横に振ります。子どもの教育資金や住宅ローンといった大きな負担を抱えている人が多く、早期退職に応じる余裕はないそうです。
しかし、水戸さんは違います。彼にとって、これは長いあいだ待ち望んでいた絶好の機会です。提示された退職金の金額は3,000万円。この退職金を受け取れば、ついに目標の「資産1億円」を達成できます。
「長かった……これで夢が叶う」
こうして、水戸さんは希望退職に応募したのでした。
こんなはずでは…セカンドライフで直面した「想定外」
見事55歳でFIREした水戸さんは、念願のセカンドライフに突入。毎朝好きな時間に起き、テレビやゲームを楽しみ、気が向けば昼間からお酒を飲み、夜も自分のペースで好きな時間に眠りにつきます。誰にも縛られない、水戸さんにとって憧れ続けた暮らしの始まりでした。
しかし……その解放感は、長くは続きませんでした。自由を満喫できたのはせいぜい1ヵ月ほど。その後は時間を持て余し、日々に張り合いを見出せず、社会から切り離されたような孤独感に苛まれるようになりました。
節約と資産運用が趣味の水戸さんは、消費・浪費に対して罪悪感やストレスを抱いてしまうように。そのため、ただただ“なんの予定もない日々”を過ごします。
そんな調子で退職から1年が経ったころ、堅実な運用の甲斐あって、水戸さんは無職にもかかわらず資産を減らすことなく1億円台をキープします。しかし、資産の増加に反比例する形で水戸さんはどんどん元気がなくなっていきました。