同居生活によって生じた「想定外の溝」

当初は穏やかな生活が続いていました。孫の笑い声が家中に響き、妻の美智子さんも日々の暮らしにハリが出たように見え、義男さんは満足してました。しかし、生活リズムや価値観の違いは次第に表面化していきます。

娘夫婦は夜遅くまでテレビやゲームに熱中し、孫の寝かしつけも遅れがち。義男さんが「早く寝かせた方がいい」と口にすると、「口出ししないで」と返され、気まずい雰囲気になることもありました。

また、夕食の時間も合わず、孫の保育園の送り迎えを義男さん夫妻が担う日が増えていきました。「共働きで忙しいのは理解できるけれど、あまりに頼られすぎている」と美智子さんは不満を募らせます。

さらに、娘家族が連休に旅行へ出かけた際、事前に何にも知らされなかったことに義男さんが「一言くらいあってもいいだろう」と咎めると、沙織さんは「私たち家族がすることを、いちいち報告しなきゃいけないの?」と反発。その日を境に、家族間に流れる空気は重たく、とげとげしい様相に変わりました。

事あるごとに衝突を繰り返すようになり、購入から約5年後、義男さんも美智子さんもとうとう限界を迎えたのです。

「このままの暮らしではお互いにストレスが溜まるだけ。どちらかが出ていくか、家を売るしかない」と考えました。もちろん娘夫婦がアパート暮らしに戻るわけはありません。そこで、娘夫婦には内緒でこっそり不動産会社に相談。しかし、返ってきた答えは冷たく現実的なものでした。

「二世帯住宅、とくに融合型は買い手が非常に限られていて、売却価格は高く見積もっても4,000万円程度でしょう」
 

住宅ローンを返済した時点で資産はほとんど残らないという現実に直面したのです。

私たちの3,000万円は何だったんだろう……。義男さん夫婦は深い後悔を抱えながらも、結局「我慢して暮らす」以外に選択肢はありませんでした。