老親が出資して二世帯住宅を購入する家庭は少なくありません。 「孫の近くで暮らしたい」「老後は家族に囲まれて過ごしたい」という思いは、親世代に共通する理想でしょう。しかし、現実には同居ゆえのストレスや価値観の違いが家庭内トラブルに発展し、後戻りのできない後悔を抱える人もいるのです。今回は、老後資金を投じて夢の二世帯住宅を手に入れた68歳男性が、2年後に味わった苦悩とその教訓をファイナンシャルプランナーの小川洋平氏がお届けします。
同居なんてするんじゃなかった…老後資金を切り崩し〈総額7,000万円の二世帯住宅〉を購入した68歳元会社員。「孫と暮らせる」「老後も安心」と歓喜も、わずか5年で「もう限界」大後悔のワケ【CFPの助言】
二世帯住宅で「老後も安心」「孫の成長を見守れる」と歓喜
68歳の高木義男さん(仮名)は、地方の大手企業で40年以上勤め上げたのち、65歳で退職しました。その後は、企業年金と厚生年金で月額24万円ほどを受け取り、妻の美智子さん(65歳)と2人、夫婦水入らずの静かな日々を楽しんでいたのでした。
そんなある日、同じ町内のアパートで暮らす一人娘の沙織さん(38歳)が、夫と2人の子どもを連れて実家を訪れ、こんな相談をしてきました。
「子どもたちも成長してアパートが手狭で……できれば家を建てたいけど資金が足りなくて」
沙織さんは時短勤務で年収200万円ほど。娘婿は建設関係の会社に勤務していましたが、年収は400万円台と、土地と家を購入するには不安が残る状況でした。
一方で、義男さん夫妻が暮らす家は、築30年を過ぎて、そろそろフルリフォームをしなければと考えていたところでした。そこで、二世帯住宅を建てればいいのではないかという話になっていったのです。
「家族みんなで暮らせば、老後も安心だ」
「孫と一緒に暮らせるなんて夢みたい」
と義男さん夫婦は喜び、最終的に、これまで暮らしてきた戸建てを解体し、娘夫婦と孫も一緒に暮らせる二世帯住宅に建て替えることにしました。
建物費用と諸経費を合わせた総額は約7,000万円。義男さん夫妻は、老後資金として蓄えていた7,000万円のうち3,000万円を頭金として支払い、残りは娘夫婦が住宅ローンを組みました。
二世帯住宅には、プライバシーを重視して玄関も室内もほぼ独立しているタイプから、玄関や水回り、リビングなどを共有するタイプなど、さまざまな種類があります。そのなかで、義男さんたちが決めたのは、ほとんどの生活設備を共有する「融合型」。娘婿を含めた親子仲はすこぶる良好で、孫の面倒を見たり生活も協力し合えること、食事もにぎやかで楽しいといった理由からでした。
金銭面でも、生活費も分担できるから助かる……そう考えていたのですが、そううまくはいかなかったのです。