60歳以上の採用事情、甘くない現実

木暮さんのような状況に陥るシニア世代は決して珍しくありません。むしろ、構造的な問題として多くの60歳以上の求職者が同様の困難に直面しているのが現実です。

Indeed Japan株式会社の調査(※)によると、60歳以上を積極採用している求人割合は、2024年9月時点で全体の0.1%を割り込んでいます。ピーク時である2020年7月の約0.3%と比較すると、4分の1程度にまで激減しているのです。

60歳以上でも応募可能な求人はより多く存在しますが、企業側が「シニア歓迎」と明確に打ち出している求人は極めて少ないのが現実です。コロナ禍を経て企業の採用方針が大きく変化し、特に専門技術を持たないホワイトカラー職のシニア採用は困難な状況となっています。

さらに深刻なのは、デジタル化・AI化の進展により、ホワイトカラーの仕事そのものが減少している点です。従来、管理職が担っていた業務の多くがシステム化され、経験と勘に頼った意思決定よりもデータに基づいた判断が重視される時代になりました。木暮さんのようにITスキルに乏しい元管理職にとって、この変化は致命的な障壁となっています。

※参考:https://jp.indeed.com/news/releases/20241113

年功序列世代が直面する「成果主義時代」という、さらなる壁

木暮さんの世代は、日本の高度経済成長期からバブル期にかけて働いてきた「年功序列システム」の恩恵を最大限に受けてきました。勤続年数が長ければ自動的に昇進し、会社への忠誠心さえあれば安定した地位が約束されていました。

しかし、今は成果主義が浸透し、年齢に関係なく結果を出せる人が評価される時代です。組織もフラット化が進み、かつてのピラミッド型の階層構造は崩れつつあります。

「教える・教わる」の関係は年齢と関係なくなり、デジタルネイティブ世代の若手社員がベテラン社員にITスキルを教える光景は珍しくありません。木暮さんのように「俺は事業部長の経験がある」というプライドだけで、このような環境に適応することは困難でしょう。

このギャップを埋めるために必要なのが「人間力」です。具体的には、思考の柔軟性、学習意欲、適応力などが重要になります。

まず、肩書きへのこだわりを捨て、年下でもスキルのある人の指導を受け入れる謙虚で柔軟な姿勢が必要となります。また、現代に求められる新しいスキルや知識を身につけようとする前向きな意欲も大切です。さらに、環境の変化を認め、現在の自分の市場価値を客観的に評価する適応力も、これからの時代には欠かせません。

技術スキルだけでなく、周囲と協調し、謙虚に学ぶ姿勢こそが、シニア世代の就職成功の鍵となるのです。