独居老人が陥る“孤独のワナ”

隆司さんは驚きと不安を抱えながら、母・加奈子さんに事情を尋ねました。なぜこんなにも多くの商品を買い込んでしまったのか。その問いに、加奈子さんは少しずつ胸の内を語り始めます。

夫を亡くしてからというもの、加奈子さんは夜中に何度も目を覚ますようになっていました。眠れないまま布団のなかで時間を持て余し、ふとテレビをつけると、画面の向こうからは明るく楽しそうな声が響いてきます。孤独を埋めてくれるかのような、にぎやかな空気。

深夜の番組はどのチャンネルもテレビショッピングばかりで、キャスターとゲストが笑顔で会話を交わしながら「体にいい」「毎日の生活を支える」と商品を紹介していきます。その予定調和のやり取りは、加奈子さんにとって一時的に寂しさを忘れさせてくれる時間でした。

最初は数千円の健康食品を試しに購入する程度でした。しかし、紹介されるのは年齢を重ねた人に向けた商品が多く「これはわたしにぴったり」「まるで自分のために用意されているみたい」と感じるようになり、しだいに購入が習慣となっていったといいます。

気がつけば、それは日々の楽しみに変わり、止められなくなってしまったのです。

その結果、本来は月12~13万円で成り立っていた生活費が、いつの間にか30万円を超えるように。幸い、夫が残してくれた貯金があったためすぐに生活が行き詰まることはなかったものの、家計はすでに破綻の一途をたどっていたのです。

「1回きり」のはずが…巧妙化する通販トラブルの実態

近年、高齢者を中心に通信販売に関するトラブルは増加傾向にあります。消費者庁が公表した資料によれば、65~74歳の消費生活相談のうち通信販売(インターネット通販・その他の通信販売)が占める割合は、2020年の33.4%から2022年には38.3%にまで増加しています。

特にインターネット通販に関する相談件数は、2018年には約3万7,000件だったものが、2020年には約5万件にまで膨らんでいます。

出所:消費者庁「令和5年版消費者白書」
[図表]高齢者の「インターネット通販」の消費生活相談件数の推移(年齢区分別) 出所:消費者庁「令和5年版消費者白書」

通販において注意が必要なのは、クーリング・オフ制度が原則適用されない点です。返品や交換については、事業者が定めるルールに従う必要があるため、利用者側の理解不足からトラブルにつながりやすくなっています。