ファッションアイテムのなかには、昭和では違う呼び名だったものが数多くあります。若者にとっては聞き馴染みがないものから、昭和世代の人が今使ったらちょっぴり恥ずかしいものまで、懐かしい呼び名を振り返ってみましょう。本連載では、栗山圭介氏の著書『昭和が愛した言葉たち』(有隣堂)より、死語になってしまった昭和の言葉が持つ愛とユーモアをご紹介します。
「ダサい」の一言で片付けるな。ズック、上っ張り、パンタロン…昭和の“魂”が宿る懐かしい昭和のファッションアイテムたち
パンタロン
裾の広がったズボン。ベルボトム。
解説
「パンタロン」はフランス語で「ズボン」の意味。1960年代から70年代にかけて裾が広がったパンツが世界中で流行し、日本でも大流行したことから「パンタロン」と呼ばれるように。
裾広がりのパンツは、他にもブーツカット、フレアーカットという呼称がある。ブーツカットの語源は、カウボーイが乗馬する際に、ウエスタンブーツを履きやすくするために裾を広げたこととされる。「フレアー」は裾広がりタイプのシルエットを総称するベルボトムの現代風呼称。日本では膝下から裾にかけて広がるシルエットがトランペットを逆さにしたように見えることから「ラッパズボン」と呼ばれ、60年代後半から70年代前半にかけてフォークシンガーや大学生に好まれ、ウエスタンブーツやバッシュー(バスケットシューズ)などと合わせた。
70年代の青春ドラマで、パンタロンジーンズ姿の主演俳優が下駄とコーディネートしたことがブームになり、多くの大学生が真似をして銭湯に通った。日本人にとってパンタロンは短足を隠すための貴重なアイテムとされ、かかとの高いロンドンブーツを着用しても裾の中に隠されてバレなかった。70年代の歌番組には、短足と揶揄される男性歌手がこぞってパンタロンにロンドンブーツの組み合わせを愛用したが、ドリフ番組の体操コーナーになると、底の薄い運動靴に履きかえなければならず短足が際立った。当時短足と揶揄された男性歌手の中には、ドリフ番組の出演を拒む者もいた。
具体的な用法例
A男「お前、脚を長く見せようと思ってパンタロン穿いてるんだろ」
B男「俺はバンカラな青春スターに憧れてるからラッパなんだよ」
A男「だから下駄履いてるのか」
B男「髪や髭も伸ばしてな。ヒッピーみたいで自由な感じだろ?」
A男「俺はアイビーだから、裾はスリムで髪はGIカットだよ」
B男「そんな几帳面なルックス、今どき流行らないぜ。70年代は自由の時代さ」
A男「せいぜい、ハッパでラリってろよ」
B男「あぁ、ラリホーラリホーラリルレロだよ」
※ヒッピー=1960年代後半に流行したアメリカ発祥のカウンターカルチャーで、時代に逆らいながら、自然に生きることを信念とした。長髪と髭、カラフルなシャツとベルボトムを着用し、額にバンダナを巻いた。
※アイビー(ルック)=1950年代、アメリカ東海岸の名門私立大学の通称「アイビー・リーグ」で生まれたカレッジファッション。
※GIカット=1950年代、アメリカ海兵隊が好んだヘアスタイル。クルーカットとも呼ぶ。頭頂部から前髪までを短く残し、後頭部と側頭部を刈り上げるショートカットスタイル。
※ハッパでラリる=大麻でふわっとなる。
※ラリホーラリホーラリルレロ=アメリカのテレビアニメ『スーパースリー』の主題歌の印象的なフレーズ。
ひとくちメモ
日本人にとってパンタロンは絶好の短足隠しとなり、1970年代の歌番組では男性歌手がパンタロンにかかとの高いロンドンブーツを好んで着用していた。床を擦るような長さが基本。裾が短いと「つんつるてん」と揶揄された。
現代の言い換え
ベルボトム。フレア。
※つんつるてん=寸足らず。
栗山 圭介
作家、クリエイティブディレクター