ファッションアイテムのなかには、昭和では違う呼び名だったものが数多くあります。若者にとっては聞き馴染みがないものから、昭和世代の人が今使ったらちょっぴり恥ずかしいものまで、懐かしい呼び名を振り返ってみましょう。本連載では、栗山圭介氏の著書『昭和が愛した言葉たち』(有隣堂)より、死語になってしまった昭和の言葉が持つ愛とユーモアをご紹介します。
「ダサい」の一言で片付けるな。ズック、上っ張り、パンタロン…昭和の“魂”が宿る懐かしい昭和のファッションアイテムたち
ズック
運動靴。
解説
昭和50年(1975)頃まで運動靴を総称して使われた言葉。それまで靴の呼び方は「革靴」と「運動靴」のふたつに分けられていた。特例扱いの「ブーツ」は、ウエスタンブーツのように特徴的なもののみを指し、ワークブーツやシューレース付きのくるぶしまで覆うタイプのものも「革靴」にまとめられた。
ズック「doek」はオランダ語で「麻布」(あさぬの。あざぶではない)を意味し、テントやバッグに使用される頑丈な生地であることから「布製の靴」という解釈になった。
1975年発刊のムック誌『Made in U.S.A. catalog』がアメリカの若者たちのライフスタイルや服装を紹介し、ズック(=運動靴)が「スニーカー」と呼ばれていることを知る。当誌は翌年創刊される雑誌『POPEYE』へと繋がる。
昭和54年(1979)発売のチューリップのヒット曲『虹とスニーカーの頃』や昭和55年(1980)に発売された近藤真彦のデビュー曲『スニーカーぶる~す』が10年前に発売されていたらどのようなタイトルになっていただろう。米津玄師『TEENAGERIOT』(2020年)の歌詞には「コンバース」というブランド名が登場している。
女性シンガーの楽曲には「スニーカー」のほかに「パンプス」「ハイヒール」などの履物名が頻繁に登場し、「素足」も珍しくない。Björk、一青窈、鬼束ちひろ、Coccoなど、メッセージ性の強い歌手が裸足で歌うのは、大地との一体感を得るためではないかと推察する。
具体的な用法例
A男「校庭でドッジボールやろうぜ」
B男「やろうやろう!」
先生「こらっ、ちゃんとうわ靴からズックに履き替えなさい!」
ひとくちメモ
スニーカーブームは1990年代ナイキ社製『Air Max』の価格高騰でピークに達し、若者たちが同シューズを履いている者から強奪する、通称「Air Max狩り」現象が起こる。やがて値は落ち着いたが、昨今のデッドストックブームで第2期高騰期を迎え、所有者は着用にあたり、細心の注意を払っている。
※うわ靴(うわばき)=校舎内で履くスリップオンタイプの靴。
※Air Max=ソール部分にエアクッションソールを搭載したナイキ社の大ヒット商品。
※Air Max狩り=Air Maxを所有者から盗むこと。
※デッドストック=倉庫で新品保管されたままの年代物。
現代の言い換え
スニーカー。