ファッションアイテムのなかには、昭和では違う呼び名だったものが数多くあります。若者にとっては聞き馴染みがないものから、昭和世代の人が今使ったらちょっぴり恥ずかしいものまで、懐かしい呼び名を振り返ってみましょう。本連載では、栗山圭介氏の著書『昭和が愛した言葉たち』(有隣堂)より、死語になってしまった昭和の言葉が持つ愛とユーモアをご紹介します。
「ダサい」の一言で片付けるな。ズック、上っ張り、パンタロン…昭和の“魂”が宿る懐かしい昭和のファッションアイテムたち
上っ張り(うわっぱり)
仕事のときに羽織る軽作業着。
解説
「スモック」や「白衣」のように、仕事などの作業時に洋服が汚れないように羽織る機能的な軽作業着のこと。ジャンパー、ジャケット、コート、カーディガンなど、重ね着用の着衣ではない。
その分類や解釈は難しく、事務職の人が仕事用に持参した椅子の背もたれに掛けてあるカーディガンは、あくまで「上着」であり、仕事用の服だから!と主張しても上っ張りには属さない。パーカーやナイロンジャケットもそうで、上っ張りへの壁は高い。
上半身着衣のカテゴリーは、「肌着」「トップス」「シャツ」「上着」「外着」などに分けられ、「上っ張り」はこれらに属さず、所轄は「仕事着」だ。小中学校の下駄箱で履き替える「上履き」「体育館履き」の分類に近く、場に応じて床を汚さないためにわざわざ履き替えるという概念に通じる。
同じ仕事着でもスポーツ選手のユニフォームは「制服」カテゴリー、ユニフォームの上に羽織るブルゾンタイプのジャケットやグランドコートが「上っ張り」、セットアップのジャージはユニフォームの一種で「上っ張り」ではなくあくまで「ジャージ」なのである。本当にややこしい。
混同の理由は、昭和の時代にそこかしこの家庭で、冬になると母親が「風邪ひかないように上っ張り着なさいよ」とカーディガンやらジャンパーやらコートなどを用意したからである。衣料量販店で商品を胸にあて、「まぁ可愛い上っ張り」とご満悦な御婦人は、そのような人の子孫、あるいは親族ではないかと推察される。
具体的な用法例
夫「俺の上っ張り洗濯しておいてくれよ」
妻「化粧品メーカーの開発者なんだから、白衣って言ったら?」
夫「仕事用の羽織には違いないだろ」
妻「あら、こんなところに汚れが」
夫「現場は戦場だからな。気がつかないうちに汚れるもんだ」
妻「もしかしてこれ、口紅とファンデーションじゃ」
夫「いま、し、新商品のテストをしているところなんだ」
妻「あらぁ、新商品って香水の匂いもするのね」
夫「あ、ああ、ご婦人方に香りも装ってほしくてね」
妻「髪の毛もくっつけて販売するのかしら?」
夫「……」
ひとくちメモ
事務職員が腕にしている「袖カバー」または「腕抜き」は、袖の汚れを防ぐ、腕の「上っ張り」。今では「アームカバー」と洒落た感じで呼ばれていてファンシーなものも多い。昭和57年(1982)のサザンオールスターズの14枚目のシングル曲『チャコの海岸物語』が『ザ・ベストテン』にランクインしたとき、桑田佳祐が公務員っぽい黒い袖カバーをつけて話題になった。