老後を公的年金だけで生きるのは難しく、蓄えがなくて生活苦に陥る高齢者は少なくありません。特に一人暮らしの高齢女性のなかには、子どもの手助けや公的支援を受けずに孤立している人もおり、放置すれば孤独死などにつながる可能性もあります。今回は、子どもに迷惑をかけたくない一心で生活苦を隠していた75歳の女性と、その実態を知ってしまった50歳の息子の事例とその解決策を、CFPの松田聡子氏が解説します。
節約のためエアコンもつけず…年金月9万円・独居暮らしの75歳母、熱中症で救急搬送。「元気だから大丈夫」の影で困窮も、「子どもにも生活保護にも頼りたくない」と零す理由【CFPの助言】
深刻化する高齢女性の貧困問題と孤立リスク
高齢者の貧困は現代社会が抱える問題のひとつで、特に深刻なのが高齢単身女性の状況です。
厚生労働省の「国民生活基礎調査(2022年)」によると、2021年の貧困線(貧困の境界ラインとなる手取り収入)は127万円 となっています。これは月額に換算すると約10.6万円という金額で、この水準を下回る収入で生活している人が貧困状態にあるとされています。
その基準をもとにすると65歳以上女性の貧困率は22.8% に達しており、約5人に1人の高齢女性が貧困状態にあるのです。この数値を単身世帯に限定すれば、さらに高い割合になると考えられます。
また、厚生労働省の「生活保護の被保護者調査(2025年2月分)」によると、生活保護世帯の51.1%が高齢単身者世帯 となっており、高齢者の貧困問題の深刻さを物語っています。
高齢女性の貧困率が高い主な要因は、公的年金制度の給付水準の低さです。女性の場合、結婚や出産を機に退職し、その後はパートタイムや専業主婦として過ごすケースが多く、厚生年金の加入期間が短くなりがちです。
実際に、女性の厚生年金と国民年金を合わせた平均受給額は月額約11万円 となっています(厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より)。さらに深刻なのは、国民年金のみの受給者の場合で、その平均額は月額約5.5万円 に留まります。
この年金額では、一人暮らしの生活費をとてもまかないきれません。総務省の家計調査(2024年)によると、65歳以上の単身無職世帯の月間支出は平均約15万円となっており 、国民年金のみでは月10万円近い不足が生じる計算になります。厚生年金を受給している場合でも、平均的な生活を維持するには不足が生じる状況です。
経済的困窮に陥った高齢女性は子どもに頼れない、または頼りたくないという理由で、経済的な援助を求めないケースも少なくありません。
この状況で生活保護などの公的支援制度の利用もしないでいると、「セルフネグレクト」と呼ばれる孤立状態に陥ってしまいます。放置すれば、孤独死などにつながりかねません。
このような高齢女性の貧困と孤立の問題は、個人の努力だけでは解決が困難といえます。若いうちからの計画的な老後資金準備と、社会全体での支援体制の構築が急務となっているのです。