老後を公的年金だけで生きるのは難しく、蓄えがなくて生活苦に陥る高齢者は少なくありません。特に一人暮らしの高齢女性のなかには、子どもの手助けや公的支援を受けずに孤立している人もおり、放置すれば孤独死などにつながる可能性もあります。今回は、子どもに迷惑をかけたくない一心で生活苦を隠していた75歳の女性と、その実態を知ってしまった50歳の息子の事例とその解決策を、CFPの松田聡子氏が解説します。
節約のためエアコンもつけず…年金月9万円・独居暮らしの75歳母、熱中症で救急搬送。「元気だから大丈夫」の影で困窮も、「子どもにも生活保護にも頼りたくない」と零す理由【CFPの助言】
子どもに心配かけたくない…「一人暮らし」をする75歳母の困窮ぶり
うだるような暑さが続く真夏のある日、横浜市内の会社で忙しくPCに向かっていた水野啓一さん(仮名・50歳)の携帯電話が鳴りました。
番号は茨城県に住む母のきよ子さん(仮名)のものでしたが、耳に飛び込んできたのは見知らぬ男性の声です。声の主は救急隊員でした。気温が35度を超えるなか、自宅のアパートでエアコンを使わずに過ごしていたきよ子さんは脱水症状になり、救急搬送される事態に陥ったのです。
啓一さんは頭が真っ白になりました。75歳になる一人暮らしの母・きよ子さんとは、年に数回会う程度ですが、月に1度は電話で話していました。「母さん、生活に困ることはない?」と声をかけると、きよ子さんから返ってくるのは「大丈夫、大丈夫。まだ働けるから」という明るい声でした。
知らせを受けて、啓一さんは急いで病院に駆けつけました。幸い、きよ子さんの意識は戻り、ホッとした啓一さんは、病院からの帰り道、母のアパートに立ち寄ることにしました。
しかし、玄関を開けた瞬間、啓一さんは言葉を失いました。部屋は殺風景で、冷蔵庫を開けると、なかにあるのは賞味期限の近い見切り品の惣菜が数点のみ。電気料金の督促状が何通もテーブルに置かれています。
「母さんはこんなに生活に困っていたのか!」
啓一さんは、初めてきよ子さんの本当の暮らし向きを知ったのです。翌日、病院を訪れた啓一さんは、きよ子さんを問い詰めました。
「母さん、どうして本当のことを言ってくれなかったんだ」
きよ子さんは重い口を開き、公的年金月9万円とパートの給料を合わせて月12万円程度の収入でほとんど蓄えもなく、節約のためにエアコンをつけられなかった生活ぶりを打ち明けました。
「あなたにも生活があるじゃない。大学生と高校生を抱えて大変なのに、私のために家族が困るなんて嫌だったの」
さらに、きよ子さんは「生活保護は恥ずかしくて受けられない」と言います。
たしかに啓一さんは住宅ローンや教育費で手一杯で、きよ子さんへの経済的な援助は難しい状況です。しかし、このまま母を放っておくことなどできるはずもなく、途方に暮れてしまうのでした。