「銀行員なら老後は安泰でしょう」——そんな周囲の羨望の声に包まれながら、田中夫妻(仮名)は退職しました。退職金2,000万円と企業年金で「これで安心」と思っていたのも束の間、退職から3年が経った現在、毎月多額の赤字に苦しんでいます。なぜ、誰もが羨む「安定職業」だった銀行員家庭が、こんなにも早く老後破産の危機に陥ってしまったのでしょうか。銀行員という職業の意外な制約と退職後に直面する現実から、あらゆる職業の人が学ぶべき教訓についてFPの青山創星氏が詳しく説明します。
お金のプロのはずなのに…最高年収1,000万を誇った元銀行員〈退職金2,000万円・年金月28万円〉で「勝ち組老後」と思いきや…月13万円の大赤字に転落→「あと6年後に破綻」のジリ貧に悲鳴【FPの助言】
老後破産を回避する3つの緊急戦略―個人の状況に応じた多様な選択肢
赤字家計に焦った正雄さんは、慌ててFP(ファイナンシャルプランナー)の元に駆け込みました。
「まだ間に合います。でも、今すぐ行動を起こす必要があります」
FPの永瀬財也さん(仮名)は、田中夫妻の家計を分析してこう断言しました。
「ただし、対策は一律ではありません。その人の年齢、健康状態、リスク許容度によって最適な対策は変わります」
永瀬FPが提示した対策は以下の通りです。
戦略1:生活水準の見直しと支出の最適化
まずは月額41万円の支出を徹底的に見直しました。
【削減項目】
・携帯電話を格安SIMに変更:月1.5万円削減
・生命保険の見直し:月3万円削減
・外食・娯楽費の削減:月4万円削減
・新聞・雑誌・サブスクの整理:月1万円削減
・光熱費・通信費の見直し:月1.5万円削減
・車の維持費見直し:月3万円削減
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合計:月14万円の支出削減
これで支出は月27万円まで圧縮できました。
戦略2:個人の状況に応じた資産運用戦略
田中さんは投資に興味があり、まだ頭もしっかりしているため、長期投資である程度のリスクを取って資産を増やしながら使っていく戦略が可能でした。
【田中さんのケース(積極運用型)】
・新NISA活用:300万円投資(年利4%想定)
・高配当株投資:200万円投資(配当利回り5%)
これにより、月約2.2万円の投資収益を確保。しかし、すべての人に同じ戦略が適用できるわけではありません。
【リスク回避型の選択肢】
・国債や定期預金中心の安全運用
【認知機能低下を考慮した選択肢】
・家族信託の活用
・成年後見制度の事前準備
・シンプルな金融商品への集約
永瀬FPは説明します。「70代後半以降は認知機能の低下リスクも考慮する必要があります。その場合、複雑な投資よりも、わかりやすい商品への集約が重要です」
戦略3:収入補完の多様な選択肢
収入補完のためにはさまざまな選択肢があります。田中夫妻の場合は、それぞれ信用金庫とスーパーでのパートをすることに決めました。
【田中夫妻の場合】
正雄さん:地元信用金庫で週3日勤務(月収10万円)
美香さん:近所のスーパーでレジ業務(月収5万円)
【他の選択肢】
・在宅ワーク(データ入力、翻訳など)
・シルバー人材センターの活用
・仕事や趣味で培った技能を活かした個人事業
長年にわたり身に着いた生活水準の切り下げは思いのほか大変でした。しかし、対策実施から6ヵ月後、田中夫妻の家計は劇的に改善しました。
【改善後の月次収支】
・収入:年金28万円+アルバイト収入15万円+投資収益2.2万円=45.2万円
・支出:27万円
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収支:月18.2万円の黒字転換!
75歳以降を見据えた長期戦略
さらに、永瀬FPは重要な提案をしました。
「今の黒字を長期投資に回してもいいでしょう。ただし、75歳以降は投資戦略の見直しも必要です」
【10年間の資産形成計画】
・黒字の内、月15万円を投資
・年間180万円×10年=1,800万円の投資
・年利4%運用で10年後の資産見込み:約2,200万円
【75歳時点での戦略転換リスク】
・資産から安全資産へのシフト
・個別株から債券・REITへ
・認知機能維持のための定期的な専門家相談