自らの老後資金を犠牲にしてまで教育投資をしてきた子どもが社会人になり、ひと安心していた矢先、「本当にやりたいことを見つけた」「もう一度大学受験をしたい」という、まさかの告白が。教育資金は、必ずしも親にとって“報われる投資”とはならないことも……。本記事では、子どもに対する親の役割・支援のあり方について、FPの三原由紀氏が解説します。
冗談だろ…教育費2,000万円を投じた〈自慢の息子〉が三つ指ついて告げた「とんでもない決意」。安定コンサル退職・医学部再受験宣言・実家リターン懇願に、世帯年収850万円・50代夫婦、絶句【FPの助言】
親の役割は「背中を押すこと」か「線を引くこと」か?
ファイナンシャルプランナーの視点では、教育資金は老後資金を圧迫しない範囲で行うことが大原則です。
斎藤さんのケースで考えると、このまま65歳になるまで働き続けた場合、公的年金の受給見込額は夫婦で月25万円ほど。老後資金1,000万円をなんとか貯めてきましたが、決して十分と言えません。築40年になる自宅の大規模修繕が目下の悩みの種です。
「ここまでなら援助できるが、それ以上は本人負担」という線引きを事前に話し合うことが、親子双方のためになります。医学部再受験のような高額な学費が必要な場合、以下のような制度も検討できます。
知っておきたい、返済免除条件付きの支援制度
制度はたくさんありますが、代表的なものは以下の通りです。制度の存在を知っているかどうかで、資金計画は大きく変わります。なお、合格後に学費が準備できず辞退となるケースもあるため、事前の情報収集が重要です。
・都道府県の医師修学資金制度
・地域枠(大学と自治体連携の特別入試枠)
・矯正医官修学生制度(法務省)
・民間・公益法人の医療系奨学金制度
翔太さんは現在、会社を退職し予備校に通いながら週20時間の家庭教師アルバイトを続けています。実家に戻り生活費を抑えつつ、来春の受験を目指しています。
斎藤さん夫妻も不安が消えたわけではありません。
「もし途中で諦めたら……という気持ちは正直あります。それでも、自分で考えて選んだ道なら、信じて見守ろうと思います」
親の役割は、無制限に資金を提供することではありません。現実的な条件を子どもと共有し、その枠内で自立して挑戦できる環境を整えること。それが、50代以降の親世代に求められる新しい親子関係のかたちなのかもしれません。
教育への投資は素晴らしいことですが、親自身の人生設計も同じく大切です。愛情と現実のバランスを取りながら、お互いが納得できる支援のあり方を見つけていくことが重要でしょう。
【参考資料】
・文部科学省 令和5年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金等 平均額(定員1人当たり)の調査結果について
https://www.mext.go.jp/content/20231226-mxt_sigakujo-000033159_1.pdf
・厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します
三原 由紀
プレ定年専門FP®