エリート元部長の我流接客

すると、Bさんは笑顔で入店案内をし、料理を運ぶなど第一印象は悪くないものの、顔なじみの常連客をみつけると、そのまましばらく話し込んでしまいます。

最初は「エリートの元部長が接客している」と興味津々のお客さんも、いつまでもテーブルを離れないBさんに対して嫌気がさしている様子。ひどいときには、お客さんの隣に座って話し込んでいる様子もみられます。

「こりゃひどい!」

憤りを覚えたAさんは、Bさんを呼び出し、面談することにしました。

コンサル料でも支払ってほしい…元エリートの“身勝手な言い分”

そして、その日の閉店後、AさんとBさんは向かい合い、面談がスタートしました。「慣れない接客業はどうか」と切り出すと、呼び出された理由を知らないBさんは、次のようにいいました。

「いやあ、居心地のいい店で助かってますよ。自分は正直、金には困っていないんですが、社会貢献として仕事を楽しみたいと思っていて。飲食業をやったことはありませんでしたが、人と話をするのは得意ですし、ここのお客さんは顔なじみが多くて、楽しく仕事ができています。お客さんだって、ここのうまい酒を飲みながら私の現役時代の営業ノウハウを聞くことができて満足しているはず。一石二鳥ですよ。コンサル料でも支払ってほしいくらいです。ハハハ!」

Bさんの思わぬ言葉にAさんは半分呆れながら返します。

「なるほど……。でもね、今日Bさんの接客する姿をみさせてもらったんですが、あくまでBさんはこの店の店員として働いていて、相手はお客様であることを意識してもらえますか? Bさんの仕事内容は、お客様を迎え入れ、スムーズにお酒や料理を運ぶこと。少しくらいのコミュニケーションはいいですが、店員として適切な距離感で接客することが重要です。いつまでもテーブルに居座っていたんでは、ほかのお客様の迷惑になるし、店の評判にも影響が出かねません」

言葉を選んで真摯に指導したつもりでしたが、Bさんは反省するどころか、どこか見下したような態度で次のように言い放ちました。

「……(笑)。店長はまだ若いからわからないかもしれんが、俺みたいに成功してきた人の話をタダで聞けるなんて、めったにないことだよ。本来は研修講師として何十万も払って聞く話をこんな街角の居酒屋で聞けるなんてって、みんな喜んでいるに決まってるじゃない。なんなら、社員教育も自分がしてあげるけど。本当はちょっと思ってることがあってさ……。よかったら親会社の人に話をつけてあげるよ。彼、もともと知り合いなんだよね」

「自分がすべて正しい」という身勝手な言い分で、店長の指導には聞く耳をもちません。

Bさんを採用してわずか1ヵ月、辞めたいといいだす社員に、接待をキャンセルする常連客……。AさんはBさんを採用したことを、深く後悔するのでした。