超高齢社会の日本で増えている「熟年離婚」の落とし穴

厚生労働省「令和4年度離婚に関する統計の概要」によると、離婚件数を100%として、同居期間を5年後ごと(5年未満、5~10年、10~15年、15~20年、20年以上)に分けて統計をとると、同居期間が20年以上の夫婦の離婚割合が統計のある1950年以降最多となっています。いわゆる熟年離婚の多さがうかがえる結果です。

熟年離婚が増加している背景には、経済的に自立した女性が増えていることが挙げられます。以前に比べ、決断のハードルが低くなっているのでしょう。

しかし、離婚後の「家計シミュレーション」を怠ったまま決断してしまうと、今回の事例のように金銭面で困窮してしまうケースも少なくありません。

特にシニア世代の場合、健康面に注意が必要です。病気やケガで計画どおりに収入を得られなくなる可能性を視野に入れ、収入減に備えてあらかじめ当面の生活費を確保しておくなど、離婚前の入念な準備が必要になってきます。

また、収入確保という観点からは、公的年金制度の仕組みにも目を向ける必要があります。

たとえば、離婚時の「年金分割制度」について。年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類がありますが、「3号分割」は相手側の同意なしに請求することができます。一定の要件を満たした人のみに適用されますが、分割された年金は一生涯自分の年金として扱われます。

また、場合によっては、65歳より前に年金をもらうことのできる「年金の繰り上げ受給制度」も検討の余地があるでしょう。

年金を繰り上げる場合、1ヵ月につき0.4%の減額です。その減額率が一生涯続くことになりますが、安定した収入源のひとつではあります。

また、繰り上げ受給を受けながらでも、60歳以降、厚生年金に加入して働くこともおすすめです。これにより、65歳以降の年金受給額を増やすことができます。

離婚を決断する前には利用できる制度を調べ、さまざまなシミュレーションをしておきましょう。このシミュレーションが足りないと、理想と現実のギャップに自身の決断を後悔してしまうかもしれません。

“怪我の功名”…休養をきっかけに家計収支を見つめ直した百合子さん

“怪我の功名”というべきか、休養中、百合子さんは自分の今後についてゆっくり考えることができました。

「無理をして働いて体を壊してしまっては元も子もない」と、支出を減らす方法やパート以外で収入を増やす方法を調べ、「年金分割」や「年金の繰上げ受給」についても知識を得ます。

今後は自身の家計収支を把握したうえで、年金の繰り上げを検討しているそうです。

また、年金の3号分割の請求期限は現在のところ離婚の翌日から2年間。こちらも手遅れにならないように手続きを進める予定とのこと。

百合子さんは自身のセカンドライフについて、ほんの少しだけ前向きに考えられるようになったのでした。

山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表