長い会社員生活を終え、ようやく手にした自由な時間。現役時代のプレッシャーから解放され、年金の足しにと始めたパートは、気楽でストレスもありません。傍から見れば、それは穏やかで幸福な日々なのかもしれません。しかし、仕事以外の膨大な時間を、ただテレビを眺めて過ごす毎日。面白い番組があるわけでもないのに、リモコンを握りしめたまま時間が過ぎていく――。そんな時、ふと胸をよぎる言葉にならないモヤモヤ。そんな虚しさを感じているのは、一人ではありません。多くの60代が抱える共通の悩みです。有り余るほどの時間を前に、どう過ごせば心が満たされるのでしょうか? 本記事では、ふくしまゆきお氏の著書『定年後を豊かにするシンプルライフ お金・モノに頼らない生活の実現へ』(ごきげんビジネス出版)より、お金がなくても定年後の生活を豊かに過ごすためのヒントを探っていきます。
年金の足しに“週3日の清掃パート”…ストレスフリーで幸福なはずの60代。ひたすらテレビを眺め、消えない「心のモヤモヤ」老後の葛藤
定年後の自由時間は定年前の総労働時間に匹敵
私たちは定年後にどのくらいの時間や、自由に使える時間があるのか、単純な計算をしてみます。23〜64歳までの労働時間は約9万時間です(1日9時間・月20日労働として、9時間×240日×42年間=9万720時間、65歳の誕生日になったら退職)。
65〜85歳までの自由な時間や、自分の時間は、約7.6万時間もあります(1日10時間が自分の時間として、10時間×365日×21年=7万6650時間)。
60歳で定年退職の場合、それまでの労働時間約8万時間に対し、そのあとの自由時間は9.5万時間となり、定年後の自由時間のほうが長いのです。旅行や休むことなどに飽きたあと湧き上がってくるのは、「なにか仕事をしたい!」といったモヤモヤ感です。
リクルートワークス研究所の坂本貴志氏の綿密な調査と分析によると、多くの人は定年後(60歳以降)、週に数日間ストレスが少ない単純な仕事や小さな仕事をして年金の足しにしている、とのことです。
仕事はデスクワークから現場仕事になります。販売や清掃などです。定年以降の能力低下にあわせ(悲しいことですが……)、仕事の負荷も低下し続けてストレスから解放されるのです(うれしいことです)。仕事への満足度が上がり、さらには「幸福である」と答える人の割合も増えます(同調査より、50歳38%、70歳55%)。
もちろん、報道されているように老後破産で苦しんでいる人もいますし、生活費を得るため懸命に働き続けている人もいます。年金をもらっても老後の生活費がまったく足らない人は、「小さな仕事」というわけにはいきません。
大変ですが、稼ぐしかありません。しかし「多くの人はそうではない」というのが坂本氏の分析です。では、60歳以上の人たちは「小さな仕事」をしながら毎日なにを楽しんでいるのでしょうか。次頁で見ていきましょう。